先輩からのメッセージ
   

「キャリア構築能力」が大切

福川 勲
(平9経 大和総研・企業調査第二部)


 私は平成九年(一九九七年)に経済学部(地主ゼミ)を卒業しました。卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社しシステムコンサルタント業務を経験し、平成十三年(二〇〇一年)から大和総研で現在の情報サービス・ソフトウェアセクター(業界)のアナリスト業務に従事しています。まず、私の現職である証券アナリストという職業についてご説明したいと思います。ここでは議論を簡単にするために、私が現在従事している証券会社所属のセルサイド・アナリストに絞ります。

基本的に各セクターアナリストは、小売、銀行、電機などの担当セクターを持っており、自身の担当業種に特化した調査を行います。調査の視点は、各業界の上場企業の業績動向、経営戦略、事業戦略、業界動向等で、担当企業のマネジメント層・IR担当者に対する取材や各種統計資料などがインプットとなります。そのインプットを基に当該企業の業績予想、セクターの今後の見通し、投資判断といった自身のオピニオンをレポートにまとめ、時には直接プレゼンテーションを行い、保険会社、信託銀行、投資顧問会社といった機関投資家の株式投資に役立てていただくわけです。

私の場合、情報サービス・ソフトウェアセクターを担当していますが、日常業務では前職の経験が大いに役立っています。私の主要な調査対象は、システム構築を行うシステムインテグレーターですが、彼らが行なっている事業は基本的に前職のシステムコンサルティング業務で一作業者ながら自身も従事したものです。情報システムに対して、ある程度の共通したバックグラウンドを共有していることが、担当企業への取材をスムーズに行うことの助けになっています。業界、事業内容について一定以上の理解があると相手側に認識されなければ、質の高い取材は行えません。基本的に情報は拡散すると価値が低下するという性質があり、付加価値の高い情報は口コミでしか入手できないと考えるべきです。このため、事業会社との信頼関係を築き、質の高い取材を行えるか否かはアナリストにとって極めてクリティカルです。
こうした現在のアナリストの仕事にはやりがいを感じていますが、前職時代に自身のキャリア構築について色々考えさせられた成果であったと思っています。前の職場は、日本の大企業と異なり、四十代まで会社に留まるケースは稀です。また、私と同期の多くも将来的な転職を視野に入れ、現在の仕事はその一つのステップに過ぎないと考えていました。長期の景気低迷で終身雇用制度が崩壊する中、ビジネスパーソンとして生き抜いていくには、「キャリア構築能力」が重要と思います。これから皆さんの多くは就職活動をされると思いますが、就職活動でぜひよい出発点を見つけて欲しいと思います。「キャリア構築」にとって重要と思われる三つのポイントについて私見を述べたいと思います。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

① ビジョンを持つこと
自身の職業選択の際、自分がどうありたいのかという点について一度、しっかり考えるべきだと思います。一旦、社会人になってしまえば平日の多くの時間を仕事に費やすことになります。その仕事が自身の理想像の実現に繋がるものであれば、より前向きに仕事に取り組めることになると思います。最終的に実力をつけるためには困難から逃げず、徹底的に打ちこむことが必要不可欠です。「なぜ、その職業についたのか」ということに対する自分自身への納得は、仕事上幾度となくぶつかるさまざまな困難・障害を克服する力となってくれるでしょう。

私の場合は、「日々、成長を続ける自分でありたい」というビジョンを持っていました。できなかったことができるようになることや知らなかったことを知ることが、いちばん自分にとってエキサイティングだったからです。正直言って、コンサルティング会社時代は元々コンピュータのバックグラウンドが乏しく苦労をすることが多かったですが、そこで逃げずに知識を吸収していったことが今の仕事にも役立っています。加えて、このビジョンはアナリストという職業を選んだ動機の一つにもなっています。

② 自身の向上に貪欲であること
上記のビジョン実現には、現状の自分には足りないところが多くあるはずです。それを自ら貪欲に補っていく姿勢が重要です。最初は仕事を覚えるだけで四苦八苦でしょうが、通勤時間などをうまく活用して、自分のすべき「勉強」をすることが重要です。こうして身につけた「スキル」が自分のキャリア上の選択肢を広げてくれるはずです。

③ コミュニケーション能力
周囲と良好な関係を築く能力も大切です。ビジネスは一人ではできません。社会人になって大きく変わるのは、自身が関わる必要のある人の数が格段に増えることです。こうした中で重要となるのは、相手の意向をうまく汲み取ることや自分の意向をうまく伝える「コミュニケーション能力」です。これは、おそらく学問から得られるものではなく、人生経験から得られるものと思います。大学時代は「自由時間」という面で最も恵まれているのですから、学問も重要ですが、アルバイト、旅行、趣味、クラブ活動などでもさまざまな経験をしてください。私にとっても、このコミュニケーション能力の向上は常に課題です。なぜなら、アナリストは事業会社、投資家などさまざまな人々との「コミュニケーション」が仕事なわけですから。

”凌霜”359第号(2003年11月号)掲載文より