凌霜第433号 2022年04月08日

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凌霜四三三号目次

 表紙絵 昭32法 髙 倉 俊 夫

カット 昭34経 松 村 琭 郎

 

◆巻頭エッセー

 神戸大学社会システムイノベーションセンターの現状   鈴 木 一 水

 終活と社会貢献~最期まで自分らしい人生の実現に向けて~   岡 本 雅 之

◆『国民経済雑誌』定期購読のご案内

目 次

◆母校通信   中 村   保

◆六甲台だより   行澤一人、鈴木 純、清水泰洋、四本健二、村上善道

◆本部事務局だより   一般社団法人凌霜会事務局

 ご芳志寄附者ご芳名とお願い/事務局への寄附者ご芳名

 会費の銀行自動引き落としへの移行のお願い/

 令和4年度~令和5年度の代議員/令和4年度代議員名簿

◆(公財)神戸大学六甲台後援会だより(68)

◆大学文書史料室から(42)   野 邑 理栄子

◆学園の窓

 経営学研究科長・経営学部長への就任に際して   國 部 克 彦

 戸籍の本籍は動かさない方が良い   芦 谷 政 浩

 ウィーンでの在外研究   岩 佐 和 道

 変わらない(変われない)日本?   志 谷 匡 史

◆表紙のことば 鄙のお土産   髙 倉 俊 夫

◆六甲アルムナイ・エッセー

 経営学部卒の一級建築士~ロイ・スミス館復旧工事に携わって~   藤 本 美 樹

 ピープルスキルの時代   高 島   徹

◆凌霜ネットワーク

 神戸大学大阪クラブ、再スタートの一年を振り返って   岡 部 幸 夫

 神戸大OB囲碁愛好家歓迎!東京六甲クラブ囲碁会入会者募集   廣 瀬   寛

◆六甲台就職相談センターNOW 六甲台就職相談センターのミッション~相談員の役割~   浅 田 恭 正

◆学生の活動から

 六甲台学生評議会第十八代代表より~神戸大学ベルカンのご紹介~   樫 畑 彩 花

 日露学生コンペティション活動記   山 原 さくら

 もっともっとワクワクする世界に飛び込みたいあなたへ   土 井 仁 吾

 純米酒『神のまにまに』学生広報活動を体験して   酒 井 萌 花

◆クラス会 しんざん会、さんさん会、むしの会、双六会

◆支部通信 神戸

◆つどい 藤井ゼミ、水霜談話会、大阪凌霜短歌会、

     東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、

     神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、花屋敷KUC会

◆物故会員

◆国内支部連絡先

◆編集後記   行 澤 一 人

◆投稿規定

<巻頭エッセー>

神戸大学社会システムイノベーションセンターの現状

 

社会システムイノベーションセンター長 鈴  木  一  水(昭59営)

 

 4月に社会システムイノベーションセンター長に就任しました鈴木一水です。よろしくお願い申し上げます。この機会に、本センターの役割、組織および現状について説明させていただきます。

 本センターは、法学研究科、経済学研究科、経営学研究科、国際協力研究科および経済経営研究所の社会科学系5部局の有機的連携による先端的・学際的プロジェクトを推進するために2012年4月に設立された社会科学系教育研究府を前身とし、社会科学における分野横断研究を継承しつつ、さらに社会科学系以外の学内諸研究組織や学外研究者とも連携し、社会問題解決を目指す総合的な研究の拠点として、2016年4年に改組して設置されました。本センターの英語表記は、Kobe University Center for Social Systems Innovation略してKUSSIなのですが、まさに社会科学を中心として諸科学分野に横グシを刺す組織となっています。

 現代社会は、経済発展にともなう地球規模での環境、資源・エネルギー、人口・食糧、格差・貧困、人権、健康・福祉といったさまざまな問題に直面しています。本センターの目的は、こうした社会問題を解決するための社会システムイノベーションの創出と社会実装を強力に推進する分野横断・文理融合・異分野共創研究を行うことにあります。

 社会問題の解決には、社会システム全体をイノベーション創出型へ革新することが必要です。そこで、本センターは、社会を社会制度、科学技術および市場の三層から構成されるシステムと捉え、これらのすべてを研究対象としつつ、アントレプレナーシップによってこの三層を結びつけ、社会全体をシステムとして複眼的・総体的に分析し、社会システムの創造・変革のための証拠に基づく政策提言や社会実装を通じて、社会問題を解決することを目指しています。そのためには、先端的な実証研究によって社会問題を分析し、問題解決のための社会システムの変革を実現する論理やプロセスの一般化・理論化を図る手法を開発するのはもちろんのこと、投資家、産業界、国・自治体、地域社会といった多種多様なステークホルダーと連携を図り、知を創造し社会に実装するとともに、それを機能させ社会に貢献できる人材を育成しなければなりません。さらに、研究成果の社会実装と人材育成によって社会システムのイノベーションを起こすと同時に、研究成果を世界発信することも任務と考えています。本センターは、こうした知と人材の国際的共創および世界発信の拠点としての役割を果たすべく活動をしています。

 

 こうした分野横断・文理融合・異分野共創研究を通じて社会問題を解決するという理念のもと、本センターでは、次の8つの研究部門を設置し、各種研究プロジェクトを推進しています。

(1)農業・環境・資源システムイノベーション研究部門では、日本だけでなく世界の農業に関するさまざまな問題を取り上げ、データ分析や実地調査に基づいて文理融合的な学際研究を行うとともに、グローバルな低環境負荷型サプライチェーンを実現する研究とその社会実装、および環境負荷が低く経済効率性の高い環境・資源システムの構築に関する研究を実施しています。

(2)医療・福祉システムイノベーション研究部門では、社会経済的な要因分析を通じた疾病分析から健康管理への政策的インプリケーションを導いたり、ICT活用を通じて医療保険・介護保険の財政改善につながる課題の解明など、医療と介護の各システムに関する総合的な調査研究を行っています。

(3)金融・財政システムイノベーション研究部門では、金融革新の進展が金融・経済システムに与える影響について研究しています。

(4)市場研究部門では、さまざまな社会・経済問題に即して市場構造と経済主体の行動を分析し、イノベーションの可能性を研究しています。

(5)社会制度研究部門では、社会制度とイノベーション、グローバル化と社会制度、企業・行政のガバナンスといった現代社会において大きな関心を呼んでいる課題を、マクロとミクロの両面から研究しています。

(6)アントレプレナーシップ研究部門では、イノベーション創出とアントレプレナーシップ(企(起)業家精神、企(起)業家活動)との関連性に関する広範な課題を研究しています。

(7)IT化とビッグデータの蓄積・利用をめぐる社会システム研究部門では、幅広い分野においてIT化とAIの利用が進むことで生じる課題と社会の対応のあり方を検討するとともに、これらの技術を既存の社会問題解決に応用する可能性も探求しています。

(8)持続可能性とリスクマネジメントをめぐる社会システム研究部門では、自然的・人為的リスクの社会的影響を分析するとともに、当面の短期的方策を提言しつつ、長期的な社会システム変革の可能性も探求しています。

 

 個別の研究プロジェクトには、社会科学系5部局の教員をリーダーとするものが毎年、公募によって選ばれ、8つの研究部門のいずれかに所属して研究を実施しています。2021年度は、48の研究プロジェクトが進行しており、これらには学内研究者120名、学外研究者150名が参加しています。このように、本センターは、研究分野や所属機関の異なる研究者の抱える問題意識やアイデアの種を分野横断・文理融合・異分野共創研究プロジェクトとして立ち上げ成長させ成果を世界に発信し普及させるプラットフォームとしての役割を負っているといえます。

 

 社会問題解決に役立つことを任務とする本センターでは、各種研究プロジェクトの研究成果を社会に還元し実装することにも力を注いでいます。まず、研究成果の報告の場として、シンポジウムやワークショップを開催しています。2020年度は25回実施しました。政策提言や社会実装は、2020年度は46件ありました。2021年度も「加点式健診事業」への高校生の参加を提案したり、生育基本法に研究成果を反映させたり、兵庫県職業能力開発計画における在職者の能力開発の方向性とKPI設定などへ関与しています。

 世界最高水準の研究成果の国際発信にも努めています。2020年度に本センターの研究プロジェクトの成果として公表された論文のうち、世界水準の研究成果の引用データベースであるWeb of Scienceに登録されたものは43報ありました。また、国際共著論文・著書も43報ありました。さらに、世界的に定評のある学術出版社であるシュプリンガー社から、研究成果を英文書籍としてまとめたブリーフ・シリーズとモノグラフ・シリーズを毎年継続的に出版しています。2017年から現在まで累計でブリーフ・シリーズを19タイトル、モノグラフ・シリーズを12タイトルそれぞれ発刊しています。

 人材育成にも関与しています。まず、社会科学系5部局の連携・交流の促進、および分野横断・文理融合的な学際教育・研究の推進、ならびに学生の能動的な学びを促すための、ゼミ・講義単位での学際教育のための取組みを支援しています。さらに、社会科学の枠組みを越えて、経営学研究科と医学部付属病院の連携による実践的病院経営マネジメント人材養成プランのカリキュラム開発にも協力しています。

 

 以上述べてきましたように、本センターは地域、所属機関、専門分野の垣根を越えた異分野共創研究を推進し、その成果の社会への還元と人材育成を通じて、社会問題の解決に貢献しております。今後もより一層、多くの研究プロジェクトを推進し、社会システムの変革に役立つとともに、神戸大学の社会的地位の向上にも貢献して参りたいと考えています。

 なお、各研究プロジェクトのより詳しい内容、および研究成果の発信・提言・社会実装につきましては、次のURLにアクセスしてご覧ください。

http://www.cfssi.kobe-u.ac.jp/

 

著者略歴

神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学域長・大学院経営学研究科長・経営学部長を経て現在、神戸大学社会システムイノベーションセンター長、財務会計基準機構企業会計基準委員会委員、防衛装備庁契約制度研究会委員、(公財)大阪観光局監事、野崎印刷紙業株式会社社外取締役、近鉄グループホールディングス株式会社社外監査役

終活と社会貢献~最期まで自分らしい人生の実現に向けて~

 

平4営 岡  本  雅  之

(三井住友信託銀行㈱執行役員個人企画部長)

 

人生100年時代の到来と終活

 「人生100年時代」、このフレーズを見聞きしない日はない。私がバブル景気華やかなりし1992年に神戸大学を卒業した際には考えもしなかった時代の到来である。このような社会環境の大きな変化を前に、ライフステージの捉え方も変わり、高齢になっても趣味や学び直しに積極的に取り組み、心身ともに充実して過ごしているアクティブシニアも多い。一方、高齢社会白書(内閣府令和3年版)によれば、日本の人口は202年10月時点で1億2,571万人から2040年には1億1,092万人と、わずか20年で約1,500万人減少すると推計されている。年130万人以上の相続が発生するといういわば「大相続時代」が到来していることも事実である。また、世帯構造も大きく変容し、サザエさん一家のような3世代同居の世帯はごく少数となり、2020年には単身世帯が3分の1、10年後にはなんと4割を占めると推計されている。このような背景には、核家族化、女性の社会進出の進展、生涯未婚率の上昇、生活の利便性向上等といった複雑な要因によるものであるが、「おひとりさま」はいまや当たり前の存在になったと思う。

 そして、「終活」について世の中の関心が高まっている。認知度は9割にのぼり、書店には様々な終活関連の冊子や自ら作成するためのエンディングノートが置いてあり、特設コーナーとなっていることもある等、完全に市民権を得たのではないだろうか。おひとりさまへの終活に関するアンケートによれば、不安に感じていることの上位は「公共料金や行政への各種手続」や「遺品整理」といった自分自身ではどうにもできない、いわゆる死後事務となっている。

 「手前味噌」の話で恐縮であるが、私が勤務している三井住友信託銀行は、社会課題やお客さまの悩み・不安に真正面から向き合い、信義誠実と奉仕開拓等を行動規範として発展した歴史があり、自らの存在意義(パーパス)を「信託の力で新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」と宣言している。この志のもと、先の課題への対応策の一つとして「おひとりさま信託」を開発した。

 「おひとりさま信託」は、万が一の時のことを心配することなく、「自分の人生に責任を持ち、自分らしく生きるおひとりさまの応援」をコンセプトとし、不安の上位項目である死後事務を代行することを主たる目的とする信託商品である。当社グループ一体で、葬儀埋葬・訃報連絡・遺品整理・デジタル遺品の消去等の死後事務を行いつつ、いつでも・どこでも・かんたんに書き換えができるデジタルエンディングノートの提供やSMSによる安否確認といった機能を実装している。また、諸手続後の残余財産については、当社の提携先からご本人が選択した先に寄付することが可能であり、最期まで自分らしさを実現する仕掛けも用意した。2019年12月の取扱開始から足元で約1,000件の受託に至り、昨年には、おひとりさまを応援し社会課題の解決に取り組む点が評価され、2021年度グッドデザイン賞を受賞する等、好評を頂戴した。こうした人生100年時代ならではの問題に真正面から向き合い、今後もお客さまの充実した安心ミライの実現を応援していきたいと考えている。

 

環境・社会課題解決と寄付

 近年の大きな変化として忘れてならないものは、環境・社会課題解決に対する関心の高まりが挙げられる。わが国は、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大きな危機を乗り越え、足元では新型コロナウイルスの克服に向けて一丸となり戦っている。こういった危機の際には寄付への関心が高まる傾向にあるが、SDGsに対する意識の高まり等を背景として寄付マーケットは着実に拡大しており、寄付文化が醸成されてきている。企業においても同様だ。約10年前にハーバード大学のマイケル・ポーター教授らにより提唱された「CSV経営」すなわち企業は、株主への利益還元に加え、社会課題の解決を通じた共通価値の創造を目指すべきである、という方向感が浸透し始め、真のCSV経営に変革しつつある。

 そして、全人類に共通する気候変動問題への対応である脱炭素・カーボンニュートラル社会への転換も避けては通れない。社会の転換には多額の資本が必要であり、投資・融資のみならず寄付も重要な役割を果たすことが求められている。

 寄付に際して面倒な手続をすることなく、寄付ができる環境整備を推進していくことも肝要である。例えば、クラウドファンディングはインターネットのプラットフォームを介して多数の方から資金を集める手法であるが、その規模は2,000億円超とも言われている(出典:認定NPO法人日本ファンドレイジング協会「寄付白書2021」)。また、クレジットカードによる寄付も浸透しており、デジタル化の進展の中で「いつでも」「かんたん」といった共通項を見出すことができる。

 寄付が成立するためには受贈者という、もう一人の関係者が欠かせない。多くの受贈者は、寄付を募りたいものの、人的・資金的な制約等から限定的な募集活動にならざるを得ないといった課題を抱えている状況にある。

 三井住友信託銀行は預金業務や融資業務、投資業務など資金の出し手と受け手を繋ぐ金融仲介機能を有し、そこで蓄積したノウハウを寄付仲介に応用し、2020年5月に「新型コロナワクチン・治療薬開発寄付口座」を開設した。国民共通の願いであるコロナ禍の解消に向けて研究を重ねる大学と、社会課題の解決に貢献したいという国民の想いを寄付でつなぐスキームである。特別定額給付金の支給も追い風となった結果、約1,800件、2億6,100万円を寄付者の想いとともに本学をはじめとする参加大学に寄付することができた。

 また、その後も大学と協議をする中で、一回でどんと多額を寄付してもらうよりも継続的・平準的な寄付に対するニーズが強いこと、また寄付者へのアンケート結果からも同様に継続的な寄付意向があること、「だれ」ではなく「何に(目的・使途)」寄付するかを重視していることが明らかとなった。

 これらを踏まえ、第二弾として、2021年4月に医療支援寄付信託の取扱を開始した。本信託では、寄付期間を5年間とすることで継続的な寄付を促進する他、医療支援という共通のテーマのもと、特色ある研究活動を実践されている大学から寄付先を選択いただくことができる(神戸大学については、https://www.smtb.jp/-/media/tb/personal/entrustment/donation-lineup/contribution/pdf/m_kobe-u.pdf参照)。特徴的な点は、同一の大学を継続的に支援することも、寄付先の活動報告等を踏まえ寄付先を毎年変更することもできる仕組みとした。これは、寄付者は寄付がどのように活用されているのかについて強い関心を持っている点を踏まえ、「情報公開に対する大学へのインセンティブ強化と情報公開の充実に伴う寄付者の関心の高まりを通じた寄付の増加といった好循環」の実現を狙いとしており、三井住友信託銀行においても情報公開のサポートを進めている。

 

自分らしい人生の実現に向けて

 大相続時代は今後も続くが、そこには資産とともに一人ひとりの想いがあり、物語がある。それらを実現するためには、ミライを託す子孫への円滑な「世代循環」は必要不可欠であり、経済の持続性といった観点からもその重要性は明らかである。

 同時に社会貢献に対する意識の高まりに鑑みれば、今後は、家族や親族のみならず、広く社会や後世に対する想い・おもいやりを自身が築いた大切な資産とともにつなげていく「社会循環」といった考えが浸透していくのではなかろうか。

 神戸大学は本年創立120周年を迎えるが、『開放的で国際性に富む固有の文化の下、「真摯・自由・協同」の精神を発揮し、人類社会に貢献するため、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を育成する(します)』を使命としている。

 また、凌霜会の「凌霜」は、神戸高等商業学校の初代校長の水島銕也先生が命名されたものであり、「人生の試練に耐えて(菊のように)香り高く、美しかれ」との意が込められている。われわれOB・OGには、菊のように美しく清廉な社会貢献の精神が刻まれている。

 先の見通せない世の中であるからこそ、「自分らしさ」が人生の羅針盤になると思う。誰もがいつかは迎える相続に対して、万全の終活により前向きで幸せな生活を過ごしつつ、社会貢献への想いを寄付により実現する、そんな最期まで自分らしい人生を皆さんと共に歩みたい。