凌霜第425号 2020年04月07日

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凌霜四二五号目次

 

表紙絵

カット 昭34経 松 村 琭 郎

 

◆巻頭エッセー 昨今の就活事情と大学のサポート   南   知惠子

<目 次>

◆母校通信   品 田   裕

◆六甲台だより   行 澤 一 人

◆本部事務局だより   一般社団法人凌霜会事務局

 2020年度正会員会費納入のお願い/ツイッター、ファイスブックなど

 SNS、メールマガジン活用を/ご芳志寄附者ご芳名/

 事務局への寄附者ご芳名/米寿のお祝い

◆(公財)六甲台後援会だより(60)   (公財)神戸大学六甲台後援会事務局

◆大学文書史料室から(34)   野 邑 理栄子

◆学園の窓

 文理融合:想像の最先端   神 谷 和 也

 『組織の経済学』出版!   宮 原 泰 之

 神戸大学での30年   奥 西 孝 至

 お気に入りの条文   西 上   治

◆凌霜ゼミナール 神戸大学V.スクールの開校   國 部 克 彦

◆六甲余滴 キャンパスへの坂道―神戸大学の私的風景―   濱 田 信 夫

◆六甲台ゼミ紹介 経営学部・宮尾ゼミ   中 川   遥・奥 村 優 奈・九 津 見 萌・吉 倉 菜 央

◆学生の活動から 復活四年目の集大成   藤 森 丈太郎・寺 田 伊 織

◆六甲台就職相談センターNOW 就職活動体験記―Part2―   浅 田 恭 正

◆表紙のことば 川辺の春・大阪天満   松 村 琭 郎

◆クラス大会 四四会

◆クラス大会ご案内 珊瑚会

◆クラス会 しんざん会、しこん会、さんさん会、三四会、珊瑚会、

      イレブン会、むしの会、双六会、神戸六七会、

      E二四会(えにしかい)、61会

◆支部通信 東京、福井県、岐阜、大阪、神戸、広島、熊本県

◆つどい 三木谷会、竹の子会、新保ゼミ、義凌会、ホッケー部OB会、

     凌霜謡会、二水会、水霜談話会、大阪凌霜短歌会、

     東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、

     神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、垂水凌霜会、

      花屋敷KUC会

◆追悼 抜山映子さん(昭32法・昭34法修)を悼む   安 中 一 雄

    新見 肇君(昭36営)を忍ぶ       上 田 博 晟

◆物故会員

◆国内支部連絡先

◆編集後記   行 澤 一 人

◆投稿規定

昨今の就活事情と大学のサポート

 

経営学研究科教授・キャリアセンター長

 

南   知 惠 子

 

「出島」としてのキャリアセンター

 2018年春にキャリアセンター長に就任し、学生のキャリア形成支援業務に携わってきました。この2年間に経団連の就活ルールの廃止の発表や、就職情報サービス会社による就活生の内定辞退率の販売問題、博士人材の活用のための政府の対策の打ち出しなど、キャリア関連のことが社会問題として取り上げられることが多々ありました。キャリアセンターの仕事を通して感じたことをここに記し、就活を取り巻く状況について皆さんと共有したいと思います。

 神大生の就活をサポートする組織は、同窓会を母体とする組織や生協など複数あり、各キャンパスに担当窓口があります。神戸大学キャリアセンターは、全学の学生を支援する組織として12年前に設立され、鶴甲第一キャンパスで活動を行っています。主な活動は就活関連のイベントの企画・運営と学生の個別相談、公務員志望者のための説明会開催、全学共通教育のキャリア科目の提供、就業インターンシップと院生向けの企業との研究インターンシップの支援、学生のボランティア活動支援です。

 着任早々、就職情報サービスの企業複数社や、インターンシップを開始したい外資系企業の担当者の訪問を受け、次々に面談することになりました。キャリアセンターとは、大学の学務部からサポートを受けているものの、企業の採用担当者と会ったり、企業や行政機関を大学に呼んで説明会を開催したりと、大学の中では外の世界に開かれている、ちょっと特殊な「出島」のようなところです。人事部の採用担当者の挨拶・訪問に加え、学生への接触を何とか作りたいと希望してセンターを訪れる企業の多さにほどなく気づくことになります。

合説ドキュメント72時間

 キャリアセンターの最大のイベントは、キャンパス内の合同企業説明会です。いわゆる合説といいますが、鶴甲キャンパスの2つの体育館に3月に3日間で合計261社を呼び、新卒採用のための説明会を開いてもらいます。全学部の学生が参加し、企業の担当者と直接接触することになります。体育館に81社分のブースが設置され、40分単位の説明会を1セットとして同一時間帯で企業各社が行い、一日7回交替します。それを日替わりで3日間繰り返すことになります。参加学生は最大21セット説明を聞くことが可能になります。

 2019年3月7日から3日間、センター長として初めて合同企業説明会の開催責任者となりました。初日の朝、まず参加企業に挨拶し、体育館の外で行列して待っている学生を迎えいれました。運悪くお天気が悪く、かなり寒い日でした。学生は自由に好きな時間帯から参加して良いものの、入場数が思うほど伸びません。体育館に設置された机に学生が自分の所属・氏名等のプロフィールを書く紙が置いてあり、記入してから各企業ブースの説明会に参加することになります。午後の時間帯になるとそれなりに参加人数も増え活況を呈しますが、せいぜい3社ぐらいの企業の説明会を聞いた後、帰ってしまう学生が多く、夕方まで残る学生が思うほどいないことに気づきます。

 2日目、3日目と会場に張り付き、40分の説明会を7セット繰り返し、学生の企業ブースへの参加状況が刻々と変わるのを、誘導したりもしながら観察していましたが、学生の立ち見が出ている説明会ブースがある一方で、空席が目立つブースが少なからずあり、それどころか学生が一人も立ち寄らなかった企業ブースがあるのが気になりました。

 結局、3日間での学生参加数は初日が約800名、2日目650名、3日目が500名と、毎日違う企業が説明会を開催しているにも関わらず、減っていっていることがわかりました。また前年よりも参加人数がかなり少ないということも後にわかりました。就活ルールというのは、経団連加盟企業が新卒採用活動に関して決めている協定ですが、情報提供等で学生に接触して良いという解禁日が現行ルールでは3月1日です。3月7日では開催が遅すぎるということをあらためて思い知らされました。また、インターンシップなど企業が学生に接触できる機会に、内々定的な告知をしているという情報も目にしました。

いわゆる就活ビジネス

 企業合同説明会では参加企業から参加料を頂いています。キャリアセンターにとっては(単純ではないですが)外部収入が入ることになります。そうすると、できるだけ多くの企業に参加してもらった方が財政上は良いということになります。しかし、学生の方からすると興味のある企業は極めて限られていて、多くの企業がきていても満足度が上がるわけではなく、学生が立ち寄らない企業ブースも少なからず出てくることになります。学生にとっては興味のある企業との接触回数が多い方が、むしろ満足度が上がるかもしれません。企業、学生のどちらの満足度優先かという問題は大学としてはあり得ないのですが、キャリアセンターではこうした問題に直面します。

 就活ルール廃止が2018年に発表された背景には、企業が就活生に接触する解禁日を実態としては守っておらずルールが形骸化しているということがあります。今の日本社会では人材不足が様々な局面で言われていますが、企業としては、できるだけ人材を確保したいということから、早い段階から学生への接触を図ろうとします。企業インターンシップ、大学内での企業による授業提供の提案は、企業にとって採用につながるような学生を発掘する機会と捉えられていますし、学生との共同プロジェクトや企業主催の学生ビジネス・コンペティションなども、企業が学生に接触できる機会となります。就職氷河期などがあったことなど想像がつかないぐらい、企業の学生への多方面での接触、早期採用活動の動きがあり、学生自身がある意味、ホットコモディティつまり人気の商品のような価値を持ってしまうことも起こっています。

 企業の採用説明会に、既に内定が決まっている学生をアルバイトとして募り、就活生と偽って参加させていた業者の事件が報道されましたが、学生を集めること自体がビジネス化しているような状況も起こっています。就職情報サービスの企業が、就活生の内定予想率情報を学生の許可なしに他社に販売していた問題は職業安定法に触れ、販売側も購買側企業も処分を受けるという事件も起こりました。内定をもらった学生が後輩を指導する、学生による就活支援団体も少なからずあります。就活イベントの影に宗教団体があったり、就活支援団体と職業紹介業者が提携していたりと、大学側からしますと学生を使った就活ビジネスが隆盛している状況に驚きを禁じ得ません。

労働市場におけるマッチングの変化

 就活とは職を求めている者と採用側とのマッチングです。景況による労働力の需給バランスにより、年によって学生は就活に苦労したり、あるいは売り手市場だったりします。さらに今起こっていることは、日本は労働人口の減少から人材不足に陥っている一方で、グローバル化するビジネス環境や社会の中では、変化や多様性に対応できる人材が求められているということです。技術の進化により単純作業に人員を割くよりも、高度な意思決定や感性が求められることが今後益々増えるということも言われています。新卒者の一斉採用を見直す時期だという議論も高まっています。

 就活は就社ではなく、学生が職業を得て、社会の中で何者かになり、社会のために役割を果たしていくプロセスの入り口にしか過ぎません。世の中が大きな変換点を迎えているのであれば、変化への対応力や、問題を解決する能力、自分自身を成長させていくという態度が今後益々求められるということだけは言えると思います。

 キャリアセンター長として願うのは、学生にいわゆる就活ビジネスには巻き込まれないでほしい、状況的に無関係でいられないとしても、やはり自分なりの判断力を高め、大学教育を受けた人材ならではの価値観を形成していってほしいということです。

 さて、キャリアセンターは様々な企業説明会を引き続き企画しています。学生の目線を考え、スマホアプリ対応の情報システムや、企業の学生への一言メッセージを含んだ、企業のHPに直接リンクできるアプリ等も作りました。企業が一斉に学生に説明会を行うといったアプローチはひょっとするとあっという間に陳腐化するかもしれません。ですが、大学キャリアセンターとしては、教育機関として学生にキャリア観の育成という点ではまだまだすべきことはあるだろうと考えています。

 

筆者略歴

神戸大学文学部卒、ミシガン州立大学コミュニケーション研究科修士課程修了。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程中退、博士(商学)。2004年より経営学研究科教授、2018年よりキャリアセンター長兼務、2019年2月より学長補佐(キャリア支援担当)兼務。