凌霜第427号 2020年10月20日

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凌霜四二七号目次

 

表紙絵 昭37営 有 田 幸一郎

カット 昭34経 松 村 琭 郎

 

◆巻頭エッセー 

   みえないものをみる、レントゲン100年間の歴史を越える発見 木 村 建次郎

◆目 次

◆母校通信   品 田   裕

◆六甲台だより   行 澤 一 人

◆新型コロナウイルスと六甲台―経営学部・経営学研究科の場合  清 水 泰 洋

◆本部事務局だより   一般社団法人凌霜会事務局

 令和2年5月度理事会/令和2年8月度理事会/

 口座自動引き落とし、終身会費など便利な会費支払い方法のお知らせ/

 ご芳志寄附者ご芳名とお願い/米寿ご芳名掲載間違いのお詫び/

 令和2年度(第13回)社会科学特別奨励賞(凌霜賞)受賞者

◆会誌「凌霜」についてのアンケートご協力のお願い   編集委員会事務局

◆新入会員/新入準会員

◆凌霜寄附講義を大幅刷新し、令和2年度も開講

◆(公財)六甲台後援会だより(62)   (公財)神戸大学六甲台後援会事務局

◆表紙のことば 京・夏の白川   有 田 幸一郎

◆大学文書史料室から(36)   野 邑 理栄子

◆学園の窓

 キャリアの節目をデザインする   金 井 壽 宏

 アメリカ留学を終えて   木 下 昌 彦

 コロナ禍で気付いたオンライン授業の大いなる可能性   茂 木 快 治

◆六甲余滴 

故郷大和桜井のまちづくり~空き家利活用を通して活気あるまちへ~ 岡 本 健

◆六甲台ゼミ紹介 経済学部・勇上和史ゼミ   山 本 幹 太

◆六甲台就職相談センターNOW ―内定への道―   浅 田 恭 正

◆学生の活動から 

   応援団復活の軌跡〜コロナ禍の神大生へのエールも添えて〜   宮 脇 健 也

◆クラス会 しんざん会、61会

◆支部通信 東京、神戸、デトロイト

◆つどい 大阪凌霜短歌会、大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、

     神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 芦屋凌霜KUC会、花屋敷KUC会

◆物故会員

◆国内支部連絡先

◆編集後記   行 澤 一 人

◆投稿規定

 

「みえないものをみる、レントゲン100年間の歴史を越える発見」

 

数理・データサイエンスセンター教授

 木  村  建次郎

 

(株式会社 Integral Geometry Science CSO)

 

 ヒトが眼でものを見る、そこには必ず光の存在があります。光がものにあたり、ものから反射した光が眼のレンズにより、網膜上でピントがあうとき、ものがくっきり見えます。カメラと全く同じ原理です。では、ヒトはどうして壁の向こうがみえないのでしょうか?それはヒトの眼が反応できる光が限られているからです。光すなわち電磁波にはいろいろな種類があって、ヒトが反応することができるのはごく限られた光の一部で、壁を貫通しません。レントゲン博士は1895年、驚くべきカメラを発明しました。体の中の骨を写真にとることができるカメラです。これは、X線という非常にエネルギーの強い光を使います。この光は体も壁も貫通してその向こう側に伝わっていくのです。

 エネルギーが強いというのは、テニスのサーブが早いというイメージをもつのがよいと思います。遅いサーブでは、すぐに打ち返されてしまうが、大坂なおみのようなビッグサーバーだと、相手のラケットをはじいてフェンスに突き刺さります。この大坂なおみの放ったボールがまさに、光でいうところのX線です。X線よりもサーブのスピードが遅いのが紫外線、さらに遅いのがヒトの眼が反応する可視光という光です。このX線をものにあてると、貫通するのですが、金属はその貫通をとめることができます。金属は、非金属に比べると硬いですが、硬いというのは、実は電子が沢山詰まっていて、それらがX線を吸収することで、X線の通過をとめるのです。壁の向こうに貫通してきたX線の影絵をとると、X線の通過をとめた金属があった場所となかった場所を写真にとることができます。写真にとるというのは、X線に反応する薬品を塗ったフィルムを感光させます。

 

 しかしながら、レントゲン博士の大発明には非常に大きな問題が2つあります。一つ目は、サーブのスピードが速いほど相手に与えるダメージは大きくなり、X線を浴びると生命の設計図であるDNAが破壊され、紫外線を浴びると皮膚はただれます。自然界でもこれらの強い光のボールは、わずかに存在しますが、ストレートにいうと、生命に有害です。議論の余地はありません。これは1億人に光をあてる臨床試験をして体調不良がなかったというような非科学的な話ではなく、より根幹的に、紫外線は有機物の電子を励起し化学結合を切断する力があることが物質科学によって実験的にも理論的にも説明できてしまうのです。X線はさらに強力です。レントゲン博士は、この恐ろしい光を用いたすばらしいカメラを創りだし、医学の発展に多大な貢献をしました。相手を破壊しながら画像を創り出すのです。すなわち、写真をとると同時に、相手に致命的なダメージを与えるのです。

 レントゲン博士の発明には非常に大きな問題がもう一つあります。強いボールを投げるということは、途中にちょっとそこらの硬さのものがあっても無視して突き抜けていきます。つまり、金属のような硬いもの以外は不感であるということです。よくニュースで、お医者様が、X線撮影で癌の診断ミスや見落としなど報道されていますが、診断ミスという解釈は完全な間違いで、そもそも癌がハイコントラストでうつる理由などなく、機器の原理の問題で、お医者様の問題ではありません。より原理的に非常に判別が難しいということ自体が正しいのです。骨折の場合は明確です。骨は金属で、X線を止めますので、明瞭な影絵をつくることができますが、癌のようなものは金属でもなければ、X線からみれば特段、正常組織とも違わないので、明瞭に写る理由などありません。レントゲンの二つ目の大きな問題は、強い光は壁を突き抜けたが、そういったものは当然ながら繊細な違いなど感知できるはずもないのです。日中は、太陽が眩しすぎて星が見えないことと関係します。

 これらの大きな問題があるとはいえ、レントゲン博士がX線を発見した1895年から約100年間この発明は破られていない。いまでも当たり前のように、病院、空港、あらゆるところでレントゲン博士の発明が使われています。

 

 世界の片隅で、近年、私達は、この100年間のレントゲン博士の歴史をついに覆す大きな発見をしました。大坂なおみの放つ強いサーブ(X線、ガンマ線等)ではなく、私が放つ弱いサーブでも壁の向こうや人体の内部をみることができる方法を発明したのです。大坂なおみのサーブでは、強烈で癌も正常組織も区別できないですが、私のサーブは弱く、これらの違いにも敏感に反応し、相手を傷つけないだけでなく、繊細なものの形を正確に捉えます。何が大発見かというと、弱いサーブをあてると、当然、貫通できないので、あちこち跳ね返ります。そのあちこち跳ね返ってきたボールをうけとめると、どこに何があったか完全に理論的に決定できるということが分かったのです。これがどれだけ大変なことか分かっていただけたでしょうか?これは、ものの陰になったあらゆるものを、相手を傷つけずに見ることができるのです。レントゲン博士や、X線CTを発明したハウンスフィールド(1979年ノーベル賞)、ローターバー(2003年ノーベル賞)も大変驚くことでしょう。彼らの発明の裏には、この跳ね返りの問題―散乱の問題―を解決するのが困難であるという事実が隠されていたのです。

 

 

 跳ね返ったボールからどのように相手の形を決定するのか、私が何を発見したか説明します。ボール(波動:光や音は波動として伝搬)が跳ね返るということ、その跳ね返るという事象を〝高次元の空間で設定される場〟としてとらえて、その場が満たされるべき方程式―散乱場の方程式―を導き出すことに世界で初めて成功しました。あちこちから跳ね返ってきたボールをうけとめて、この情報をつかって上の方程式をとくと、実際には行ってもいない場所で、〝ボールを投げるとどのように跳ね返ってくるか〟が、理論的に決定されてしまうのです。テニスに例えると、コートのベースラインでしかボールを打っていないのに、サービスラインより前でボールをうったときどうなるかということが、理論的に(ためしてもないのに)一義的に決定されてしまうのです。これが決定されたとして、なぜ相手の形や位置がわかるのかというと、〝ボールを投げ、跳ね返ったボールを受ける〟が空間のあらゆる箇所で決まりますので、ボールを放って0秒後に跳ね返ってくるという場合も計算することができます。この計算結果が相手自身の姿形となるのです。私と競争する世界の有名大学、例えばマンチェスター大学等の研究者たちは、超高速な計算機などを使って莫大な計算によって相手の位置を予言しようなどしていますが、それには偉大な先人達も草場の陰で笑っていることでしょう。普遍性もなく、収束するはずもなく、計算すればするほど虚しさだけが募っていく。

 

 私が発見した方法がもたらす恩恵について説明します。まず、医療診断には革命が起きます。いままで放射線ではほとんど映らなかった癌などが明確に映るようになり、被曝することなく、妊婦や子供に利用することができ、疾病を早期に発見することができるようになります。

 

 また、地下探査に革命がおきます。遺跡の発見やコンクリートのなかの傷や破損している部分など、壁の外から内部を手に取るように映像化することができます。非破壊検査に革命がおきます。非破壊検査というのは、私達の身の回りの工業製品、飛行機から車、電子機器まで、内部に破損部があると大きな事故につながりますが、こういった事故を未然に防ぐことができるようになります。また、自動運転分野に革命がおきます。いまのメディアで派手に報道されている自動運転の技術では、自動運転は絶対に実現できません。自動運転で一番大切なことは事故を絶対に起こさないことです。昨今、世界で何千億円、何兆円と投資されている自動運転技術は、実は雨や砂埃が舞う瞬間にあっけなく衝突します。この理由は、見えない壁に阻まれた瞬間、いまの自動運転に搭載されているセンサーがすべて無意味になるのです。AIも無力です。なぜならば、世界はまだレントゲン博士を越えていないのです。この説明によってなぜ私の弱いサーブをつかった方法が大変価値があるか理解していただけたと思います。

 

 私の発明は、少しずつ身近な研究者、学生、投資家らに知ってもらえるようになり、約200億円の価値として株を購入してもらいましたが、いまだにキャッシュレスアプリやニュース配信の便利系商品を作る会社に時価総額が及びません。これを思うと虚しさと悔しさで夜も眠れません。芸術に美を感じるには、やはり莫大な時間がかかるということなのか、それとも、そもそも原始の世界から変わらず毎日必要とされているような生活必需品を大規模に扱う会社と時価総額で争うこと自体が無意味なのか悩みます。しかしながら、私は、やはりレントゲン博士の人類の福祉への貢献は無限に大きかったと信じており、私は少なくとも100兆円の会社を創る事業計画を投資家らと準備しています。時価総額、PERはアイドルの人気投票と同じだと多くの投資家がいいます。彼らの主張の中では、我が国が誇る世界最大の自動車会社が、ソーシャルネットワークアプリの会社に時価総額で負けてしまっているという事実を引き合いに出します。ところが、人類はレントゲン博士の発明のようなものを毎日待ち望んでいるはずであり、この矛盾は、科学者が発見を世界に伝えるプロセスに問題があると考えています。私が世界で最も尊敬する物理学者が、晩年に教科書を執筆したときに、弟子たちに向かって〝世の中に正しく理解してもらわなければ自分の仕事がいかに重要であったか評価されない〟と言い残しています。私は、〝現代の時価総額の在り方に対する激しい憤り〟と、〝文明史に残る素晴らしい技術に対するあこがれ〟が、日々の研究開発に取り組む大きな意欲の源となっています。

 

筆者略歴

 2006年京都大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)。2008年神戸大学大学院理学研究科講師、2012年同准教授。2018年神戸大学数理・データサイエンスセンター教授兼理学研究科教授。2017年第1回日本医療研究開発大賞受賞。