凌霜第410号 2016年07月01日

ryoso410.jpg凌霜四一〇号目次

◆巻頭エッセー 企業文化変革への努力      廣 瀨   博
◆母校通信                        藤 田 誠 一
◆六甲台だより                      行 澤 一 人
◆本部事務局だより         一般社団法人 凌霜会事務局
◆(公財)六甲台後援会だより(45)
                 (公財)神戸大学六甲台後援会事務局
◆大学文書史料室から(19)              野 邑 理栄子
◆中国は「二重の罠」を超えられるか          梶 谷   懐
◆学園の窓
 在外研究中の新たな挑戦               髙 田 知 実
 ベトナムの技能実習生                 斉 藤 善 久
 法解釈学―メタユリストに見えるもの         安 藤   馨
◆凌霜ゼミナール 火山大国に暮らす覚悟      巽   好 幸
◆六甲余滴
 TPPと農業の産業化をめぐって            絹 巻 康 史
 卒業生ネットワークを活かした
        法科大学院の講座             田 中 良 和
◆凌霜俳壇  古典和歌
◆表紙のことば   折込広告              髙 倉 俊 夫
◆関西凌霜社外役員懇談会開催のご案内      辻 本 健 二
◆六甲台就職情報センター NOW 
   ―自分の強み(Partt1)―              浅 田 恭 正
◆学生の活動から
 2016年度Ph.D.Cafe新入生歓迎会        大 塚 英 美
 六甲台就職情報センターの
       アシスタント勤務での学び          薮 内 真 穂
 就職相談とは、仏像を彫ることに似たり        中 西   亮
 模擬国際商事仲裁の大会を終えて 
                    中山知子・矢久保由介・吉田ちひろ
◆リレー・随想ひろば
 寄る辺なき日々                       窪 田   修
 2度目の台北駐在                      池 上   寬
 置かれた場所で咲く                     梶 川 浩 平
◆追悼
  道幸彦三郎さん(昭18)を悼む             新 野 幸次郎
  沼田典生君(豫科6回生)を偲ぶ            森 田 久 雄
  河合康美さん(昭26)を偲ぶ               田 上 量 一
  山本晧司君(昭37営)のOBITUARY         中 谷 正 司
◆編集後記                           行 澤 一 人


<抜粋記事>
巻頭エッセー

  企業文化変革への努力
                          昭42営 廣  瀨     博
                          (東日本高速道路㈱社長)
 今年の干支は、「丙申(ひのえさる)」。年男である。サラリーマン人生の転換点となった直近の4年間を振り返ってみたい。
 私は、1967(昭42)年、神戸大学経営学部を卒業し、住友化学工業(現住友化学)に入社。爾来、45年間在籍。その間、工場、農薬事業、総務・文書・広報・秘書、そして経理・財務、内部統制担当を務め、社長、副会長を経て、2012(平24)年6月に、東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)の社長に就任。私のような全くの門外漢が、日平均約280万台の車が走る高速道路会社のトップに立つこととなった。気心の知れた社員を一人も伴わずに。


門外漢のトップ就任
 化学会社から、全くの異業種への転身。NEXCO東日本は、将来の上場が予定されているが、今は国管轄の非上場会社である。TOP人事、建設路線、料金については、国土交通大臣の許認可が必要。その枠内で、高速道路事業(道路の建設・維持管理、パトロール、料金収受、サービスエリア・パーキングエリア(SA・PA))を運営する。2005年、日本道路公団が分割され、新たに誕生した会社。株式会社だが、一般の民間会社とは異なる特殊法人である。安全を第一に、老朽化対策を徹底的に講じ事故防止に万全を期す。そして、お客さまへのサービス向上に最善を尽くすことが重要なミッション。


安全・安心・快適・便利な高速道路
 高速道路を運営する会社にとっては、現場が第一。課題の解は、すべて現場にある。私は、今でも1年のうち、約4分の1を現場訪問に充てている。現場は、高速道路を24時間365日、安全・安心・快適・便利にご利用いただけるよう、一時たりとも、気が抜けないところ。当社は、北海道、東北、信越、関東地区(圏央道・外環道・アクアラインを含み、首都高を除く)の合計約4、000㎞という、わが国最長のハイウェイを管理。事故が起こらないよう、道路の保全や路上パトロールをしっかりと行う。緊張感をもって。お客さまには、料金を気持ちよくお支払いいただき、また、SA・PAなどでは、すがすがしい環境の中で、休憩やお食事・ショッピングをお楽しみいただけるよう、日々努力をしている。4年後には、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。圏央道や外環道といった首都圏環状道路の早期整備にも、懸命に取り組んでいる。渋滞対策や逆走対策も重要。ETCの高度化、ドライブ情報の充実、先端技術を活用したトンネル・橋梁・法面の変状把握、さらには、急速に開発が進む燃料電池車や自動運転システムへの対応も必要となる。IoT対応は、当然のこと。また、当社には、世界有数の重降雪地帯が多く、1年のうち半分近くを降雪・低温(雪氷)と闘っている。吹雪による交通規制、あるいは除雪、凍結防止対策(凍結防止剤(塩)の年間散布量は約16万t)のための通行止めが、各地で発生。これらへのさらなる効果的な対応が不可欠。なお、最近では道路インフラのフロー効果(建設時の雇用増等)だけでなく、ストック効果(整備後の各種産業の立地等)の大きさも注目されている。


真の民営化を目指して
 私は、民営化後に就任された2人のトップの後任として、この4年間いろいろな改革に取り組んできた。内部統制・取締役会・経営会議のあり方・運営の見直し、新事業の推進、社員各層のコミュニケーションやタブーを恐れない議論の励行、縦割りの排除、情報の共有、連結経営の強化、コンプライアンスの徹底、女性の活躍推進、健康的で明るい職場環境づくり、社宅の整備等を実施。また、最近では研究開発力の強化の必要性を唱え、「当社らしさ」、例えば「雪氷」対策が核となる技術開発への取り組みを加速している。さらに、経営幹部には、異業種との積極的な交流を勧めている。外部から言われるのを待って動くのでは、駄目。社会・経済の環境変化を読み、自ら課題を設定。苦労して、解決策を模索。率先して果敢に実行。しかもスピーディーに。これが民間会社のやり方だ。それを徹底するよう率先垂範している積りである。
 「民営化」を目指して、すでに、10年が経過。その間、仕事の仕方には、相当な改革が進んだ。だが、当社が、政府系の企業ながら、さらにユニークなすばらしい会社になるためには、なお一層の改善、バージョンアップが必要だ。現場を含めた会社全体の意識改革、企業文化の変革は、今後も深化させていかねばならない。まだ、まだ、道半ばだが、これを加速すれば、必ずや社員全員がハッピーなグッド・カンパニーになれる。
 世間一般でいう民間のレベルに達するためには、もう一段の努力が必要。勿論、企業の文化・風土・意識が、そう短期間に変えられるとは思わない。でも、例えば前例主義。いつまでも、これに拘わってはならない。変えるべきは、勇気をもって変える。周りを説得し、変えていかねばならない。チェンジが、今ほど、この会社に求められていることはない。もっとも、当社文化の中には、変えてはならないものがある。「安全最優先」の文化は、その典型例だ。その他にも、当社にはすばらしい伝統文化や企業風土がある。


「使命感」と「人間愛」
 この会社には、一般の民間会社にはないすばらしい特質がある。その一つは、日本の経済、市民生活に欠かせない高速道路事業そのものに対する社員の熱い思いだ。重要な社会インフラ事業に対する社員の強い「使命感」。端的に現れたのが、5年前の東日本大震災の時。ズタズタになった東北の高速道路網を、世界も驚くほどの短時間で緊急復旧させたことだった。
 もう一つは、昨年3月1日に、福島県の浜通りを縦貫して宮城県に至る常磐道を、放射線被曝対策という過去に経験のない困難を乗り越えて、無事、全線開通させたことだ。その時に見せた、東北地方の人々に対する熱い「人間愛」。
 このように、当社には一般の民間会社とは異なる強い「使命感」「地域の方々への思い=人間愛」など、すばらしい特質がある。当社の宝として、これからも変えることなく大切にしていきたい。


世界を見据えて
 ただ、一方で日本の社会・経済情勢は刻々と変化している。NEXCO東日本だけが、政府系の特殊会社だからと言って孤高を保つことはできない。国内では、少子高齢化の波が高まっている。冬期の雪氷対策や料金収受業務関係の優秀な要員の確保が難しくなりつつある。ICT技術の進歩もめざましく、それを積極的に活用しない手はない。今後とも情勢の変化を的確に捉え、適時、適切に対策を講じていかねばならない。
 日本も、いよいよ「インフラコンセッション」の時代に入った。グローバルな視点も不可欠だ。当社にふさわしい「マネジメント力の強化」が必要。さらに、もう一段の経営のスピードアップも図りたい。でないと生き残れなくなる。
 国内でのしっかりとした経営力が、海外に通用する実力の涵養にもつながる。当社をさらにすばらしい会社にしていくことが、私の最大の責務だ。繰り返しになるが、会社の文化・風土を一夜にして変えることはできない。しかし、日々の努力、社員相互の真摯なコミュニケーションの積み重ねが大切だ。当社の企業文化も、特殊法人ではありながら、着実に民間会社らしく変容しつつあるように思う。今後の展開が楽しみだ。


「自分に正直」が大切
 私自身も、すでに70年間を超える長い人生を歩んできた。大学を卒業し、社会人になった時以来、ずっと心がけてきたのは、自分なりに社会の現状を捉え自分の考えを持つこと。芯そのものは、できるだけぶれないように信念をもって進む。勿論、他の人からの学びの大切さは、今も忘れてはいない。
 人生にとって、「自分に正直」に生きることが、いかに大切か。最後は、これで決まると思っている。45年間勤務した住友化学時代、そして、4年が経過したNEXCO東日本での勤務。その間、私は、できるだけ、私心なく、信念をもって処してきたつもりだ。筋を通し、歩んできた。「至誠通天」の思いを大切にして。そして、ここまでこられたのも、実は、妻をはじめ家族全員の大変な協力と深い理解、温かい励ましがあったればこそだ。本当に心から感謝している。NEXCO東日本に入ってからも、多くの仲間に助けられながら、それなりの人生が送れてきたのかなと喜んでいる。
 お陰さまで、今も体調は良好。これからも皆さんに支えられながら、元気で明るく楽しく、年輪を重ねてまいりたいと思う。
 神大の学生の皆さん、神戸大学らしさとは何かをよく考え、「学理と実際の調和」という建学の理念を実践してください。変化の目ざましいこのグローバル化の時代に、神戸という地元に根差しながらも、大いなる誇りをもって世界に力強く羽ばたかれることを心から祈念します。