凌霜第412号 2017年01月04日

ryoso412.jpg凌霜四一二号目次

◆巻頭エッセー 年頭に当たって                   大 坪   清

◆目 次           

◆母校通信                         藤 田 誠 一

◆六甲台だより                               行 澤 一 人

◆本部事務局だより             一般社団法人 凌霜会事務局

 口座自動引き落とし、終身会費など便利な会費支払い方法のお知らせ/

 ご芳志寄附者ご芳名/事務局への寄附者ご芳名

寄附講義を本年度も開講

◆(公財)六甲台後援会だより(47)(公財)神戸大学六甲台後援会事務局

◆表紙のことば チェコ・プラハにて       本 間 健 一

◆大学文書史料室から(21             野 邑 理栄子

◆凌霜俳壇  古典和歌

◆学園の窓  想いを繋ぐ                 中 村   保

   南ウェールズの産業遺産を訪れて                 平 野 恭 平

   民法学と経済学との対話                       田 中   洋

   金融発展と貧困削減                 井 上   武

◆凌霜ゼミナール ポーランド・ヤゲヴォ大学との交流

                                   井 上 典 之

         法科大学院の近況       上 嶌 一 高

◆六甲余滴 「Adam Smithが今の日本を見れば」       絹 巻 康 史

◆東京六甲クラブ50周年記念祝賀会開催               野 崎   信

◆「関西凌霜経理財務担当役員・管理職懇談会」のご案内       

辻 本 健 二

◆六甲台就職情報センター NOW ―自然体―           浅 田 恭 正

◆リレー・随想ひろば

   アマゾン・アリアウ密林 旅の思い出     安 中 一 雄

   がんの子どもを守る会との関わり                 上 田 崇 志

   神戸大学MBAでの学び                       飯 田 宏 道

◆追悼

  富田勝三君(昭30営)を悼む                 三 島 祥 宏

  中橋誠一君(昭32経)を悼む                 正 路 達 也

  石原義邦君(昭34法)を送る                 金 原 正 展

  馬術部名マネージャー今井重和先輩(昭38法)を偲ぶ     

坂 根 利 彦

◆編集後記                         行 澤 一 人

 

 

≪巻頭エッセー≫

年頭に当たって

                 一般社団法人凌霜会理事長 大  坪     清

 凌霜会会員の皆様、新年明けましておめでとうございます。各地で穏やかに、そして健やかに新年を迎えられたことと心からお慶び申しあげます。

 昨年6月に凌霜会の第11代理事長職を拝命し、早や半年が過ぎました。諸先輩方がこれまで築き上げてこられた凌霜の伝統を守るとともに、未来を担う若い凌霜の皆様に、より良い形で引き継いでいけますよう会の運営に全力を尽くす所存です。皆様方にはこれまで以上のご支援ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申しあげます。

 さて、昨年は国内外において様々な出来事がありました。

 明るいニュースでは、何よりもリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックでの日本人選手の大活躍があげられます。この日のために厳しいトレーニングを積み、栄光のメダルをとるために必死で頑張っている選手達の姿は、我々に大きな感動と勇気を与えてくれました。努力が実を結び見事メダルを手にした選手の躍動には興奮し感動を貰いましたが、思うような結果が残せず悔し涙を流した選手達も日本人として本当に誇らしく思います。

 閉会式では、安倍総理もマリオに扮しPRに一役買われましたが、誰もが来たる2020年の東京オリンピック・パラリンピックに思いを馳せ、期待に胸を膨らませたことと思います。開催まですでに3年余りとなりましたが、世界に誇れる大会として成功に導くためには、今後とも産学官民一丸となって協力していくことが欠かせません。

 前回の東京オリンピックは戦後復興がテーマでしたが、2度目となる次回大会では、各種競技での活躍はもちろんのこと、オリンピック・パラリンピックを契機に、環境保全をはじめとして、これからの社会のあるべき姿を創造し、日本モデルともいうべき新たな価値を、世界に向けて発信していくことも重要な取組みです。

 我々日本人が世界に誇れる技術力、文化の力を結集し、人に優しく暮らしやすい、豊かで持続可能な社会のお手本を世界に発信していくのはもちろんのこと、和の心「おもてなし」の精神を発揮し、史上最高のオリンピックといわれる大会としたいものです。

 一方で、残念ながら不幸な出来事もありました。

 4月に熊本地震が発生し、8月の北海道と東北地方を襲った台風による被害、そして10月の鳥取中部地震はまだ記憶に新しいところです。被災された方々へは心からお見舞い申しあげます。東日本大震災での経験も活かし、様々な支援体制がとられ、避難所の生活環境向上のために段ボールベッドも注目を集めました。元の姿に戻るまでにはしばらくの時間を要すると思いますが、一日も早い復旧・復興を願っています。

 阪神・淡路大震災からもすでに22年が経過し、のど元過ぎればのたとえ通り、人々の記憶は徐々に風化していきますが、南海トラフ地震も想定される中、防災対策には日々の備えをくれぐれも怠らぬようにしたいものです。

 国外に目を向けると、昨年の大きな出来事として米国大統領選挙があげられます。共和党のトランプ候補がまさかの快進撃を見せ、第45代大統領に選ばれました。米国第一主義を掲げた過激な発言で最後まで民主党のクリントン候補とつばぜり合いを演じましたが、この選挙戦を通じて顕著になったポピュリズムやナショナリズムの台頭、社会の分断は、今後、米国のみならず世界にも大きな影を落としていくものと思われます。

 世界中で拡大する無差別テロ、軍事力にものをいわせた一方的な領土・海洋進出、度重なる核実験とミサイル発射など、世界の平和が日々脅かされている状況下において、これまで以上に日米の関係を強固なものとしていかなければなりません。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の批准も厳しさを増したといわれていますが、上下両院とももともと貿易推進派である共和党が過半数を握ったことや、トランプ氏もその本質はビジネスマンであり現実的な判断をしていくものと期待しています。

 いずれにいたしましても、まさに今、自立と自律の精神が問われており、わが国としては自由と民主主義という共通の価値観と世界の平和を守るため、自ら主張すべきは主張し矜持を持ってしっかりと行動していかねばならないと覚悟すべきでしょう。新政権の下、安全保障と経済両面で日米が地域の安定と世界の平和と繁栄に向け、強固な関係を築いていけるよう注目していきたいと思います。

 もう一つの大きな出来事が英国のEUからの離脱決定です。国民投票では世界中の多くが残留を予想していたため、その結果は大きなサプライズとなり、株価も一時1300円近く急落しました。メイ首相は3月末までに離脱を通報すると宣言していますが、この問題は英国自身にも大きな影響を及ぼすだけでなく、むしろEU加盟国を中心に欧州全体に大きく影響を与えるものです。

 昨年12月のオーストリアでの大統領再選挙、イタリアでの憲法改正国民投票に始まり、今年はオランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ総選挙と欧州は政治の季節を迎え、いずれも反EU、反ユーロ、反移民の声が大きく反映されることになると予想されます。BrexitがEUの枠組みそのものに致命的な結果をもたらす引き金となる恐れさえあり、英国、EU双方の知恵が問われています。

 欧州は外の問題に目を向ける余裕を失っており、日本を含め世界経済、そして東アジアの安全保障にも大きな影響を与えます。ここでも日本の確固たる姿勢と行動が求められています。

 このように世界情勢は極めて不安定化しており、時代はまさしく〝VUCA〟といえる状況を迎えていると考えています。〝VUCA〟とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったものですが、世界のこれからを考えるとき、常にこの四つを念頭に置いておかねばなりません。中でも、世界中が自分第一主義の傾向を強める中で、特にUncertainty=不確実性が高まっています。この不確実な未来にどう対処していけばよいのかを考

えるとき、"The speed of thought"と"Expect the unexpected"という二つの言葉がとても重要だと考えています。

 さて、母校神戸大学の状況についても触れさせていただきます。

 昨年9月、英国の大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ社(Quacquarelli SymondsQS)」により、2016年世界の大学ランキングが公表されました。ランキングの第1位にマサチューセッツ工科大学、第2位にスタンフォード大学、第3位にハーバード大学と続き、国内では東京大学の第34位が最高位となっています。以下、第37位に京都大学、第56位に東京工業大学、第63位に大阪大学、第75位に東北大学となっており、神戸大学は、世界で第369位、日本の大学の中では第14位という結果となりました。評価指標は「学会での評判調査」「雇用者の評価」「学生一人当たりの教員比率」「教員一人当たりの論文被引用数」「留学生比率」「外国人教員比率」などで、一喜一憂することなく、あくまで今後の取組みの参考と考えればよいと思います。

 もとより、神戸大学は法人化後6年ごとにまとめられる中期目標の平成28年度から始まる第3期中期目標期間において、海外戦略をはじめ大学の全体的な戦略が評価され国立大学法人運営費交付金重点支援大学に選ばれています。世界トップレベルを目指して機能を強化する大学としてその戦略評価ではトップ3に入っており、最高配分率110・3%を得ています。神戸大学は目標の一つとして、世界大学ランキング100位以内、国内5位以内という目標を掲げており、目標達成に向けて勇往邁進していただきたいと思います。

 先日、ホームカミングデイに母校を訪れました。休憩時間に懐かしい六甲台のグラウンドにも足を運びましたが、いくつかの運動部が練習している姿が見られ大変懐かしい気持ちになりました。すでに半世紀以上も経つわけですから、風景も様変わりすることは当たり前ですが、建物だけではなく大学そのものの姿勢や慣習も少しずつ変わってきているように思います。

 ご承知のとおり、神戸大学は1902年に水島銕也先生を初代校長として設置された神戸高等商業学校を創立の基点としており、法学部・経済学部・経営学部及び経済経営研究所の前身となります。水島先生は実務重視の観点から商業学校からの入学を認めるなど独自の入試制度や教育課程を整備されました。神戸大学には、先人達が築き上げた110年を超える輝かしい歴史と伝統が結びついて創り上げてきた文化が根付いており、それらは水島先生が命名された凌霜(漢籍で菊の意味)の精神にも受け継がれ今日に至っております。

 先ほど、〝VUCA〟の時代を迎えていると申しあげました。この、不確実でますます不安定化する世界の中にあって、我々はこれまで築き上げてきた神戸大学の歴史、伝統、文化といった先人の知恵をもう一度省みて、水島先生の「凌霜雪而香」(霜雪を凌いで香ばし)、人生の試練に耐えて菊のように香り高く、美しかれという教えを胸に、困難な時代に立ち向かうとともに、良き伝統はそのままに、たゆみなき変革により新たな伝統を築いていくことで、神戸大学をこれからもサポートしてまいりたいと存じます。

 最後になりましたが、凌霜会諸兄姉の皆様には日頃から会員の増強、寄付金のお願いなど多岐にわたりお願いをいたしておりますが、今後とも、凌霜生としての誇りをもって、凌霜の絆を繋ぐプラットフォームとしての当会をご支援いただきますとともに、共に母校のより一層の発展に向け努力してまいりたいと存じます。

 本年が皆様方にとって素晴らしい年となりますことを心より祈念申しあげ、新年に当たってのご挨拶とさせていただきます。