凌霜第414号 2017年07月11日

ryoso414.jpg 凌霜第四一四号 目 次   

◆母校通信                        藤 田 誠 一 

◆六甲台だより                      行 澤 一 人 

◆本部事務局だより              一般社団法人 凌霜会事務局 

 通常理事会で平成29年度事業計画及び予算など可決/29年度

 会費納入のお願いと終身会費などのお知らせ/ご芳志寄附者

 ご芳名/事務局への寄附者ご芳名

◆(公財)六甲台後援会だより(49)   (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 

◆表紙のことば 世界文化遺産・白川郷の秋         有 田 幸一郎 

◆大学文書史料室から(23)                野 邑 理栄子 

◆学園の窓

国際協力研究科の25年                   陳      光 輝 

カリフォルニアでの在外研究                 難 波 明 生 

「理想」と現実の距離                    小 田 直 樹 

新入生のココロをどこまで掴めるか?初年度セミナーでの挑戦  保 田 隆 明 

◆六甲余滴 開発コンサルタントとセキュリティー       田 井 稔 三 

◆凌霜俳壇  古典和歌

◆凌専会50年のあゆみ                    高 木 幸 男 

◆六甲台ゼミ紹介 六甲台第2学舎の教室から         三 浦 大 翔 

◆学生の活動から

 入学式における高岡社長との特別企画を終えて  豊成春子・田中凌太・西田優成 

 新入準会員歓迎会                     村 川 有 佐 

 原石を求めて                       岡 本 達 樹 

 六甲台就職相談センターで学んだこと 滝 島 彩也香 

◆六甲台就職相談センター NOW ―「まあ、いいか」―   浅 田 恭 正 

◆関西凌霜経理財務担当役員・管理職懇談会のご案内      辻 本 健 二 

◆大阪凌霜俳句会が神戸大学基金へ寄附 郷          原 資 亮 

◆随想ひろば

  住みよさ全国トップクラスの石川県の発展に向けて     小 林   匡 

  気候変動と魚に思うこと                 藤 井 麻 衣 

◆特別クラス会 凌専会、神五会

◆クラス会 しんざん会、神五会、さんさん会、三四会、珊瑚会、

      イレブン会、むしの会、双六会、神戸六七会、四四会、与禄会

◆支部通信 東京、大阪、神戸、島根、愛媛県、熊本県、デトロイト

◆つどい クボタ六甲会、水霜談話会、大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、

    大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 凌霜霞会、名古屋凌霜会、芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、

      能勢神友会、垂水凌霜会、花屋敷KUC会

◆物故会員  

◆国内支部連絡先

◆編集後記                         行 澤 一 人 

◆投稿規定 

<巻頭エッセー>
社会人・企業人40年にして思うこと   

昭53営 小  堀  秀  毅
(旭化成㈱代表取締役社長)


 1978(昭和53)年に大学を卒業し、社会人、企業人となり40年近くなる。その間の体験や感じたこと、また、最近は企業を経営する立場となり、今後を見据えながら思うこと等を記載する。


 化学事業を中心とする会社に入社したが、LSIなどエレクトロニクス業界に関連した部品、素材を取り扱う仕事に長年身を置くこととなった。この間同業界の技術革新、関連製品・機能の進化、及び同関連企業の栄枯盛衰を目のあたりにし、同産業のイノベーションの進化が、如何に世界の産業構造や社会環境の変化に大きな影響を及ぼしてきたかを痛感してきた。


 大学卒業後から1990年代半ば頃にかけて、エレクトロニクス産業では、映像、音楽、通信分野において日本企業発の新たなイノベーションが幾つもあり、世界マーケットを席巻する製品や日本企業が数多く見られた。映像分野では、1980年頃は、VTRの萌芽期であり、その世界普及において日本がリーダーの地位を獲得した。音楽分野では、従来のアナログカセットからデジタル化への推進を担いCDの世界普及に大きな役割を果たした。オフィスにおいても、複写機の湿式から乾式化、テレックスからFAXへと利便性の高い商品が次々開発され業務の効率化に役立った。通信分野では、自動車電話、ショルダフォーンの開発から小型化技術の進化により携帯電話が開発され、デジタル通信技術の萌芽期でもあった。


 その後日本経済はバブル崩壊に直面したが、日本のエレクトロニクス産業は、デジタル化技術の一層の進化により、映像、オーディオ、通信、情報処理、半導体等の分野において、デジタルカメラ、ビデオカメラ、DVDの開発、デジタル放送開始に伴う液晶TVの普及、サラウンド技術のホームシアター、カーオーディオへの取り組みが加速され、それなりの存在感を維持していた。しかし何と言っても大きく社会環境や産業構造に大きな変化をもたらしたものは、1995年以降のパソコンのOS(オペレーティングシステム)Windows95とインターネットの出現である。この2つの新たなイノベーションは、アメリカ企業が、世界共通規格デファクトスタンダードの地位を獲得して新たなビジネスモデルを作り出した。一方日本企業は、バブル崩壊後の負の遺産処理の長期化と欧米企業発の新たなビジネスモデルへの対応の遅れから、その地位は韓国を中心とする新興国にとってかわられた。


 パソコンの普及により身近なデータの効果的、効率的活用が生まれ、2000年代半ば以降には、IT技術の進化、浸透により情報の高速化、グローバル化が加速した。これらの事象が、新興国の発展を促し、グローバル化が一気に進むと同時に企業間の競争を激化させ、それに伴い世界レベルで企業間の合併、提携等が進んだ。


 このように過去の変化の歴史を振り返りながら、今後の10年、20年の社会環境、産業構造の変化について考えると、今まさに話題となっているIoT、AI、ビッグデータ、ロボット等が新たなイノベーションを生み出し、直近約20年間の社会環境、産業構造の変化以上に加速されたスピードでダイナミックに世の中が変化していく事は、予想に難くない。


 そして、日本企業にとって、人口動態からくる少子高齢化に伴う生産労働人口の減少による労働力の不足と総人口の減少という国内の社会環境変化に加えて、企業経営のグローバル化と新興国の経済成長に起因するローカリゼーション化へのガバナンス対応、及びIT関連の更なる発達と進化による企業経営におけるIoT、AI等の活用を如何に行うかが、大きな課題となってくる。


 この課題対処に向け、各企業の研究開発や新事業創出の在り方、取り組み方についても当然変革が必要となる。これまでは大企業が、資本力と知名度を生かし優秀な人材の確保により日本経済、また、世界をリードする研究開発や新事業創出の中心的な役割を担ってきた。しかし2000年以降は、ITの進化、浸透により、どこで誰のどのような研究が行われ、その進捗の様子が手に取るようにわかるようになった。また、アメリカにおいて大企業の枠にはまらない独創的な人々の研究開発を支援し事業化までサポートする投資家たちが数多く現れた。このような若者を中心とした独創的な人達は、大企業の労働就業規則、また、企業内組織としての運営規律等に拘束されることなく自ら興味ある開発テーマに寝食を忘れ集中することでスピード感を持って、世界に先駆け研究開発成果をもたらし、事業化するようになってきた。これは、アメリカに限らず日本においてもこの10年余り数多くのベンチャー企業を輩出してきている。このような状況下において、企業が持続的発展、成長していくには、自社の競争力の源泉となるコア技術にさらに磨きをかけ強化し続けることに加えて、国内外の企業、ベンチャー企業や産官学の研究部門との共同開発、提携等が重要な観点となってきている。単なる素材、製品の提供からIoTを活用したサービスも含めたソリューション、素材や製品の使用、活用方法の提供も含めた複合化によるパッケージの提供、及びビッグデータの活用によるマーケット密着型の展開等を図っていくことが世界マーケットにおいて、競争優位性をもつ重要な要因となるであろう。これには、従来の産業の枠を超えた企業間の連携、提携も大変重要な観点であり、新たな付加価値はこのような異業種連携から生まれる可能性が高いと感じている。


 ものづくりの現場においても、蒸気機関の発明で動力の取得による第1次産業革命化に始まり、電力・モータの開発による動力の革新の第2次産業革命、コンピュータの出現による生産自動化の第3次産業革命に続いて、ビッグデータの情報をベースにAIが最適解を引出し生産性の向上を図る第4次産業革命が予想されている。


 企業経営のグローバル化やIoT、AIの活用等に向けて、企業経営者の立場になった今、最も重要で必要な経営資源は人材であると考えている。


 従来日本では、一般的に大学卒業生の一括採用をベースに各企業が、OJTを中心とした配置転換等でゼネラリスト人材の育成を行ってきた。学生の意識も就社をベースに企業の選択を行ってきた現状がある。しかし今後のテクノロジーの進化の方向性とそのスピードの速さ、及びそこから想定される産業構造変化等への先取り、対応を鑑みると日本の社会や企業が、今後必要とする、また、求める人材は質の高いゼネラリストに加えてIT等の機能専門性の高いプロフェッショナル人材である。そのような人材を各企業レベルで短期的に育成、確保する事に対し、その質、量の両面において危機感を持たざるを得ない。その背景には、日本は、終身雇用労働慣行が中心で外部の横断的労働市場が未発達な状況であり、今後必要とされる人材の絶対数がまだ少ない。一方アメリカ等の先進諸国の雇用システムは、定年制がなく、外部横断的労働市場が存在している。企業トップCEOの仕事も高度プロフェッショナルな専門性の職種の1つであり、業種を跨いで人材の流動性がある。学生も大学での専攻を明確にし、専門性、つまり自分のJobを強く意識し、自らのキャリア形成の目標をしっかり持っている。


 そのような状況下において日本企業は、中長期のビジョンを掲げ、事業変革を行うには、グローバル視点で経営戦略と人事戦略の整合性を取ることが極めて重要。経営層、次世代リーダー、第1線のラインマネジャー、高度プロフェッショナル専門人材の強化育成・確保に加えて、高齢人材の活躍の場の提供、勤務形態の柔軟化による人材確保に取り組み、労働生産性の向上を図る必要がある。また、日本企業が世界の環境変化、産業構造変化を再びリードしていくには、国の諸政策実行による支援や大学の役割も大変重要である。企業の競争力向上に向けた法人税の減税が実行され始めたが、さらに企業の研究開発の方向性に整合するようなメリハリのある税控除、オープンイノベーション支援への手続き簡略化等大胆な施策が待たれる。IT人材、サイバーセキュリティー対応人材育成も国を挙げての強化・支援が必要である。大学においてもIoT、AI等の先端事業開発で産業界との連携強化を一層図ると同時に各大学は、欧米大学をベンチマークに人文系分野も含めて、それぞれの大学が特徴を出すことで専門性のある質の高い基礎教育を行い、新しい事や変化することに好奇心を持って自主的にチャレンジする数多くの学生を輩出することを担い、企業はその専門性をさらに高度化し社会に貢献する人材育成を図るべきであろう。


 世界中において不確実性が増し、不透明な時代であるからこそ、日本及び日本企業は、今後予想される高齢化社会、地球規模で求められるクリーンな環境社会の実現等の課題克服や貢献に向けて中長期ビジョンを持ちながら軸足を定めた施策が重要だと思うこの頃である。


筆者略歴


1955年石川県生まれ。1978年神戸大学経営学部卒業、同年旭化成工業(現旭化成)入社。2010年旭化成エレクトロニクス社長、2014年旭化成代表取締役兼専務執行役員等を経て、2016年4月より現職。