凌霜第417号 2018年04月13日

表紙写真「花見山 桃源郷」.jpg  凌霜四一七号目次

◆巻頭エッセー 国際人間科学部の設置    岡 田 章 宏 

◆目 次        

◆母校通信      藤 田 誠 一 

◆六甲台だより    行 澤 一 人 

◆図書館への寄贈について            萩 原 泰 治 

◆本部事務局だより          一般社団法人 凌霜会事務局 

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◆(公財)六甲台後援会だより(52)      (公財)神戸大学六甲台後援会事務局 

◆表紙のことば 「花見山公園」の春爛漫「桃源郷」   森  泰 造 

◆大学文書史料室から(26)        野 邑 理栄子 

◆凌霜俳壇  古典和歌  

◆学園の窓

     「学術の精神」の復活を目指して    上 林 憲 雄 

      創立100周年を迎える経済経営研究所の今           

                     浜 口 伸 明 

     中国独占禁止法の運用動向に関する研究   川 島 富士雄 

     燕園滞在小記            胡   云 芳 

◆本と凌霜人 「お金をかけない事業承継―かわいい

    後継者には〝個人保証〟を継がせろ―」  鈴 木 一 水 

◆六甲台ゼミ紹介 法学部・齋藤ゼミ      齋 藤   彰 

◆学生の活動から 三商ゼミ発表会を終えて        篠 原 光 貴 

◆六甲台就職相談センター NOW 考える力    浅 田 恭 正 

◆「神戸大学The Zen会」にご参加を        白 川 邦 與 

◆凌霜OBOG・学生懇談会in関西2017開催       辻 本 健 二

◆随想ひろば 

      法科大学院に思うこと      松 永 真 也 

      『私』の時間の重要性      宮 林 慶 輔 

       夢に向かって        安 達 明 孝 

◆クラス会 しんざん会、さんさん会、三四会、珊瑚会、山麓会、      

     イレブン会、むしの会、双六会、神戸六七会、四四会、

     61会

◆支部通信 東京、福井県、大阪、神戸、鳥取県、広島、下関、          

      愛媛県、熊本県、鹿児島

◆つどい 喜楽会、竹の子会、義凌会、ホッケー部東京OB会、          

     凌霜謡会、二水会、三菱電機凌霜会、水霜談話会、

     大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、大阪凌霜俳句会、

     凌霜川柳クラブ、神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 芦屋凌霜KUC会、廣野如水凌霜会、能勢神友会、          

      垂水凌霜会、花屋敷KUC会

◆追悼

  鈴木 登君(昭29経)さようなら 成 住 俊 二 

  川上泰正君(昭34営)を偲んで    井 上 喬 夫 

◆物故会員      

◆国内支部連絡先              

◆編集後記      行 澤 一 人 

◆投稿規定 

 

◆巻頭エッセー

          国際人間科学部の設置

            国際人間科学部長 岡  田  章  宏

 凌霜会会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 私は、昨年4月に設置されました国際人間科学部の学部長を拝命しております。このたびは、本誌の貴重な誌面において、この学部を紹介する機会をいただきましたこと、こころより感謝申し上げます。

 まずは、神戸大学にこの学部ができた経緯からご説明することにいたします。

 ご承知のとおり、21世紀に入った頃から、わが国では少子高齢化やグローバル化など政治や経済、社会に急激な変化を誘引する現象が強く意識されるようになりました。また、東日本大震災をはじめとする大規模災害も国の内外で頻発し、私たちが予測困難で不安定な状態に置かれているという実感も拡がっています。こうしたなかで、大学には、教育と研究をただ漫然と行うのではなく、解決困難な課題を克服するために、世界的な研究やイノベーションを創出し、さらにはグローバルに活躍する人材を養成するなど目に見える形で成果をあげることが求められるようになってきたのです。

 文部科学省でも、こうした社会の要請を敏感に受け止め、2012年には「社会の変革エンジンとなる大学づくり」をテーマにした「大学改革実行プラン」「国立大学改革プラン」を公表し、さらに2013年から14年にかけて全国86の国立大学を対象にそれぞれの強みや特色、社会的使命(ミッション)を整理しています。神戸大学は、この動きに呼応して、自らが「持続可能な〝競争力〟を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学」へ発展していくため、三つの機能強化改革に着手しました。それが、社会科学系分野においてグローバルビジネスリーダーの育成を目的とするグローバルマスタープログラムコースの設置(2015年)、文理融合や産学協同により基礎研究から事業化までを見通した教育研究を展開する科学技術イノベーション研究科の設置(2016年)、そして、私どもの国際人間科学部の設置(2017年)です。

 この学部は、より具体的には、神戸大学の教育戦略目標である「文理双方の分野でグローバルの舞台で活躍できる実践型グローバル人材の育成」を達成するため、国際文化学部と発達科学部を再編統合することで創設されました。今日の世界には、環境、災害、民族、宗教、経済格差、人権、教育、社会福祉等に関わり、様々な人々との協働を通して取り組まなければ解決困難な課題(グローバルイシュー)が数多く存在しています。この学部では、それらを克服に導くため、神戸大学が掲げる「実践型グローバル人材」を「『深い人間理解』と『他者への共感』をもってこのグローバルイシューと向き合い、世界の人々が多様な境界線を越えて共存できる『グローバル共生社会』の実現に貢献する人材」と定義し直し、学部として育成すべき人間像としました。それを「協働型グローバル人材」と呼んでいます。

 不安や対立が深まる時代だからこそ、「協働」する人材が求められるのだと思います。そして、その人材は、国際文化学部と発達科学部を母体にした学部だからこそ、育成できるとも考えています。1992年に教養部と教育学部を改組してできた国際文化学部と発達科学部は、いずれも、多様な学問分野を配しつつそれらの組織的な活用を通して一定の目的を実現する学際系学部です。国際文化学部は、90年代初頭にグローバル化が認識され始めたことを背景に、「異文化理解」を鍵概念に高いコミュニケーション能力を持つ学生の育成を目指してきました。他方、発達科学部もまた、「豊かさとは何か」が議論された当時の状況を踏まえ、「人間発達」を鍵概念に実践的な課題解決能力の涵養を目的にしてきました。新しい学部で「協働型グローバル人材」を掲げたのは、グローバル化の深化に伴い多様性が拡がるなかでは、互いの違いを尊重しながら「深い人間理解」と「他者への共感」を通して絆を深める「共生」の理念を具体化する主体形成が不可欠と考えたからですが、それは、二つの学部が積み上げた実績と学問的伝統があったからこそ提示できたともいえるのです。

 とはいえ、学部統合という試みは、他大学にも類例はなく、実のところ、苦労の連続でした。結局、構想から3年という月日を要しましたが、昨年4月、ひとつの形ある学部としてなんとか船出することができました。そこで次に、この学部の概要を少し詳しく紹介していくことにします。

 国際人間科学部の特徴は、何といってもまず「グローバル・スタディーズ・プログラム」(以下、GSP)を必修化した点にあります。これは、海外研修とフィールド学修を組み合わせた実践型教育プログラムで、実体験を通してグローバルイシューについて学ぶことを目的にしています。しかし、定員370名(現1年生は383名)の学生全員がこのプログラムに参加し、「協働型グローバル人材」としての基礎的素養を確実に身につけることは、さほど簡単ではありません。当然のことながら、入念な準備が必要になります。

 まず、学生の多様なニーズを踏まえ、海外研修とフィールド学修について200以上のプログラムを開発し、学生自身が自らの専門や希望に応じて選択できるようにしています。「海外スタディツアー」「インターンシップ」「語学研修」「サマースクール」「留学」等の項目で、期間、費用、行き先、内容が異なる多彩なプログラムを準備しておくことで、学生の主体的な取組を引き出したいと考えていますが、むろんそれだけでは不十分です。

 プログラムに参加する前には、その概要や目標、海外生活での留意点等を詳細に説明する「オリエンテーション」を行わなければなりませんし、また、参加後は、各自の経験を報告しその後の研究やキャリア形成にいかに結びつけるかを少人数クラスで話し合う「リフレクション(振り返り)」を実施する必要もあります。さらに、参加費用や必要な保険加入は自己負担になりますが、そうした経済的負担を少しでも軽減すべく、各種奨学金を獲得することも大変重要です。特に日本学生支援機構の奨学金は、GSPの「生命線」でもありますので、学部全体で組織的に申請を行っていく必要があると考えています(昨年、今年となんとか「満額回答」をいただいています)。また、海外での安全性を確保することも大切です。学生に対しては、独自の安全管理マニュアルを作成し徹底した事前指導を行うと同時に、私たちも何かが起こった時のため危機管理シミュレーションを繰り返し行っています。

 こうした様々な対応をするため、学長よりいただいた定員枠を用いて、コーディネータ、事務補佐員等で構成するGSPオフィスを置きました。どの方も、実に有能で、献身的・精力的に活動をしていただき、私としても全面的な信頼を寄せています。

 以上は、学部全体に関わる教育内容ですが、個々の専門分野については、国境を越えたコミュニケーションを推進できるリーダーシップを備えた人材を養成する「グローバル文化学科」、人間の発達とそれを支えるコミュニティの実現に取り組む人材を養成する「発達コミュニティ学科」、「グローバル共生社会」を支える環境を創り出す文理融合型人材を養成する「環境共生学科」、現代社会の文化的多様性を尊重した子ども教育に取り組む人材を養成する「子ども教育学科」、という四つの学科構成としています。いずれの学科も、これまでの蓄積を土台にしながらも、現代的課題に即応した実践性を具備した専門的知見が修得できるように設計されています。そして、それらは、学部内に整備された複数のラーニングコモンズを利用したり、専門科目でも頻繁に実施されるフィールド学修、そして多くの少人数対話型授業を実施することで、学生が自らの課題を発見し解決する力を養っていこうと考えています。

 とはいえ、発足から未だ1年しか経っていません。GSPにせよ、各学科での専門教育にせよ、これからが「本番」です。今後もまた、直面する難題と格闘しながら、この新しい学部を一歩ずつ前進させ、やがて一人ひとりの学生が「社会の変革」主体として力強く巣立っていく学部へと育てていく所存です。

 凌霜会会員の皆様には、生まれたばかりの国際人間科学部を温かく見守っていただき、ご指導、ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。

著者略歴

1955年愛知県生まれ。1986年名古屋大学大学院法学研究科博士課程修了。1988年神戸大学教育学部講師、2007年人間発達環境学研究科教授。2013年発達科学部長・人間発達環境学研究科長、2016年学長補佐・国際人間科学部設置準備室長。2017年より現職。専門は基礎法学。