凌霜第434号 2022年07月08日

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凌霜四三四号目次

 

表紙絵

カット 昭34経 松 村 琭 郎

 

◆巻頭エッセー 凌霜法曹への思い   水 島   昇

目 次

◆母校通信   中 村   保

◆六甲台だより   行澤一人、鈴木 純、清水泰洋、四本健二、村上善道

◆本部事務局だより   一般社団法人凌霜会事務局

 通常理事会で令和4年度事業計画及び予算など可決/5月度通常理事会/

 ご芳志寄附者ご芳名とお願い/事務局への寄附者ご芳名/

 会費の銀行自動引き落としへの移行のお願い

◆(公財)神戸大学六甲台後援会だより(69)

◆大学文書史料室から(43)   野 邑 理栄子

◆学園の窓

 揺らぐ「パクス・アメリカーナ」~世界を震撼させたウクライナ侵略と今後の展開~   簑 原 俊 洋

 ゴミと「お宝」は、紙一重――カンボディア史料「発掘」顛末記――   四 本 健 二

 青春プレイバック〜還暦ロックの挑戦~   金 京 拓 司

 若葉の候を振り返る   吉 田 満 梨

◆凌霜ゼミナール 教育の機会平等のために   村 中 泰 子

◆表紙のことば 黒部の釣人   松 村 琭 郎

◆六甲アルムナイ・エッセー

 会計と金融が織りなす人生   日 下 智 晴

 伊豆北条の里紀行~『草燃える』を追いかけて~   桑 原 千 香

◆凌霜ネットワーク

 関西学生アーチェリーリーグ戦一部復帰達成!   村 田 克 明

◆六甲台就職相談センターNOW 就活アドバイスのリアル~熱い思い~   浅 田 恭 正

◆学生の活動から

 歌う悦びを次世代へ〜混声合唱団アポロンの今〜   志 賀 慎之介

 「ライフデザインスクール」に参加して   宮 前 り さ

◆本と凌霜人

 『ビジネス・ケース・ライティングの方法論的研究―ジャーナリズムと経営学のフロンティア―』   長 田 貴 仁

 『ラーメンの文化経済学』   奥 山 忠 政

◆クラス会 しんざん会、イレブン会、むしの会

◆支部通信 東京、神戸

◆つどい 水霜談話会、大阪凌霜短歌会、東京凌霜俳句会、

     大阪凌霜俳句会、凌霜川柳クラブ、

     神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆ゴルフ会 名古屋凌霜ゴルフ会、廣野如水凌霜会、芦屋凌霜KUC会、

      花屋敷KUC会

◆物故会員

◆国内支部連絡先

◆編集後記   行 澤 一 人

◆投稿規定

<巻頭エッセー>

凌霜法曹への思い

 

昭51法 水  島     昇

 

(大阪弁護士会弁護士、凌霜会顧問)

 

日本の司法試験制度について

 今年、2022(令和4)年もゴールデンウィークが過ぎれば直ぐに司法試験のシーズンです(私たちの頃は、5月の第2日曜日、母の日が短答式の試験日でした。そして、令和5年の実施日程は、5月から7月に変更されることが既に発表されています)。日本の司法試験は、米国ニューヨーク州などとは異なり、年に一度だけです。今年の日程は、5月11日(水)から15日(日)までの(13日(金)を除く)4日間に論文試験と短答式試験が実施され、6月2日に短答式試験成績発表、9月6日に司法試験の合格発表となっています。この司法試験に合格して、法曹となっていった神戸大学法学部の卒業生や法科大学院修了生すなわち、凌霜の法曹の奮闘ぶりについて以前に少し調べたことがありました。

 神戸大学には、六甲台3学部の学生を対象に、凌霜会と神戸大学六甲台後援会が共催して凌霜のOBが講師を勤める「社会科学の実践」という寄附講義があります。私は、この寄附講義の講師として、2017(平成29)年の10月に、「日本の弁護士制度」と題して、司法制度改革の観点から司法試験制度の改革の経過について紹介したことがあります。今回、この時に調べた凌霜出身の法曹の活躍について思ったことなど、少し振り返ってみたいと思います。

 法曹三者すなわち弁護士・裁判官・検察官になるためには、司法試験に合格し、最高裁判所の司法修習生に採用されて(現在は1年間)、その最後には、いわゆる二回試験、修習生考試に合格しなければなりません。そうして初めて弁護士会への入会、最高裁判所・検察庁への任官、任検する資格を取得し、弁護士、判事補、検事すなわち法曹の道へ進んでゆくことが出来ます。

 現在の司法試験制度、法曹養成課程の本線は、法学部を4年かけて卒業後、法科大学院に入学し、既修者コースを2年で修了して得られる5年間だけ有効の受験資格により受験し、合格を目指すという建て付けになっています。法曹になるためには、2年の法科大学院修了が必要なため、最短でも法学部卒業後3年目に初めて受験が可能となり、合格しなければ、その後の7年目迄の間に全てを懸けて合格を目指すことになります(法曹養成コースには、その他予備試験制度などがありますが本線ではないので割愛しています)。

 

目を見張る「凌霜法曹」の奮闘ぶり

 さて、神戸大学法科大学院です。2004(平成16)年に本学の大学院法学研究科に、実務法律専攻(ロースクール、法科大学院、以下「神大ロー」といいます)が開設されて以降、神大ローの修了生は、2006(平成18)年から2017(平成29)年までの12年間に1,128人が司法試験を受験し、706人もの司法試験合格者を輩出しており(合格率62.58%)、全国の法科大学院においても屈指の合格者数、合格率を誇っています。今や、実務法曹養成の拠点校の一つであると言っても過言ではありません。例えば、2017(平成29)年度の法科大学院修了の受験者でいえば、全国で5,567人、合格者1,253人、合格率22.51%のところ、神大ローにおいては、受験者142人、合格者55人、合格率38.73%であり、この合格率は、全国39校中6位という立派なものです。耳慣れない言葉ですが、「エル・エル・セブン(LL7)」というネーミングの「先導的法科大学院(Leading Law School)7校」のうちの1校に数えられています。

 2004(平成16)年、74校でスタートした全国の法科大学院が、その後の合格率の低迷等、種々の理由による法科大学院入学志願者数の顕著な減少の結果、40校前後にまで減少してしまった現状の中で、神大ローは全国の法科大学院を先導し、日本の法曹養成を担っていくという崇高な理想を託された法科大学院としての位置づけをされるようになってきています。そして、実務法曹界においても少しずつ凌霜法曹の活躍ぶりに接する機会も増えてきましたし、凌霜法曹会も法科大学院創設以降の司法試験合格者の充実ぶりのおかげで一層活性化してきたように思います。

 

私が法曹を目指した頃の思い出

 神大ロー出身の凌霜法曹の若手の皆さんのこれからの活躍に思いをいたしながらも、つい、昔の少数精鋭(?)の時代を懐かしんでしまうこともあります。

 私が法曹を目指した頃は、法科大学院というものは存在せず、その修了といったような特段の受験資格というものもありませんでした。学部の卒業前でも、教養課程修了程度の学力認定がされれば、誰でも司法試験を受験出来ましたし、当時は、少なからぬ数の学部生が在学中に「現役合格」を果たされていました。勿論、受験暦十数年という強者も多数おられましたし、高齢の合格者は、研修所では挨拶担当のリーダーとしてクラスのみんなから重宝がられる人気者でした。

 私は、1977(昭和52)年、司法試験合格、司法修習生採用(32期)、翌年から文京区湯島と実務修習地神戸で2年間にわたる修習生活を満喫した後、1980(昭和55)年4月、大阪弁護士会入会を許可され、弁護士登録をして法曹生活に入りました。私の同期の凌霜法曹は、5名でしたが全員大阪弁護士会に入会したと思います。

 その頃には既に、凌霜法曹、すなわち神戸大学法学部や大学院関係の実務法曹(裁判官、検察官、弁護士)の集まりとして「凌霜法曹会」という任意団体が存在していました。初代の「代表幹事」さんは、大先輩、修習9期の北河安夫弁護士で、毎年、11月頃に大阪駅前第一ビルの「北京」という中華料理屋さんで合格者の祝賀会を開催していただきました。1978(昭和53)年10月発行の名簿には、私の名前も「(昭和)52年合格者」の一人として登載していただきました。その名簿に登載された裁判官のお名前は18名、同じく検察官は4名、弁護士が59名、52年合格の司法修習生が5名、53年合格者が5名でした。この全部で81名の法曹と10名の司法修習生というのが、その当時、神戸大学関係者として把握されていた法曹及びその予備軍の実数であり、当時約1万1千4百名であった全国の弁護士の中の1パーセントにも満たない状況でした(実際は、連絡が取れていなかった方も多数おられたかもしれません)。

 私の頃の司法試験の合格者数は、約500名でしたから(因みに、法曹會発行の「法曹期別名簿(昭和61年版)」によれば、私の修習32期は454名でした)、凌霜法曹の占有率は毎年合格者の1パーセントに満たない位でしたので、司法試験委員に任じられていた神戸大学の先生方の員数より、合格する学生の方がいつも少ないと揶揄されていたものです。

 

司法改革の時代の中で

 「神戸大学法学部」は、1949(昭和24)年の新制神戸大学が文理学部、教育学部、法学部、経済学部、経営学部及び工学部の6学部で開学した時にスタートしたと思うのですが、法曹を多数輩出してきた大学というイメージはなかったように思います。法学教育における神戸大学の充実ぶりを、遺憾なく発揮させてくれたのは、法科大学院を創設し、その修了生に司法試験の受験資格を付与するという新しい法曹養成制度のおかげかもしれません。

 2001(平成13)年6月に発表された司法制度改革審議会の最終意見書には、「21世紀の我が国社会において司法に期待される役割」について、下記のように述べています。すなわち、「21世紀の我が国社会にあっては、司法の役割の重要性が飛躍的に増大する。......21世紀社会の司法は、紛争の解決を通じて、予測可能で透明性が高く公正なルールを設定し、ルール違反を的確にチェックするとともに、権利・自由を侵害された者に対し適切かつ迅速な救済をもたらすものでなければならない」と。そして、この司法制度を支える法曹養成のあり方として、司法制度改革の議論の中で、司法試験という「点」による選抜ではなく、法曹の質と量の充実を図るためには、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備することが大切であるという考え方が次第に強くなってきました。

 司法制度、とりわけ法曹養成制度の在り方については、常に改革が求められているところであります。神大ロー出身の凌霜法曹がこの司法改革の時代の中で、しっかり社会の期待に応える司法の担い手として、これから益々活躍していくことを期待し、この拙文を終わりにしたいと思います。