凌霜第385号 2010年05月01日

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凌霜第385号目次
◆巻頭エッセー 会社経営について思うこと    加 藤   進
◆母校通信                        田 中 康 秀
◆六甲台だより                     吉 井 昌 彦
◆理事長からのメッセージ7
 「新しい凌霜会への歩み(その1)」         高 崎 正 弘
◆模擬仲裁日本国内大会 神戸大学チーム優勝  絹 巻 康 史
◆学園の窓
 心ある経営学研究・教育のセンターを目指します 金 井 壽 宏
 経済経営研究所のこれまでとこれから       下 村 研 一
 3つ目の「さか」と科学研究費補助金         畳 谷 整 克
 ある若手研究者から見た米国社会          榊   素 寛
◆リレー・随想ひろば
 みちのく随想                      米 内 滋 郎
 私と西洋美術                      曽 根   準
 「GIRLS, BE AMBITIOUS」               南   陽 子
◆附属図書館からのお知らせ             瀧 澤 栄 治
◆本と凌霜人
 「南米憧憬」                       郷 原 資 亮
 「FRB議長」                       桐 生 泰 明
 「対話でわかる痛快明快経済学史」         中 矢 忠 男

    凌霜俳壇  凌霜歌壇

<抜粋記事>
◆会社経営について思うこと

            昭45経 加 藤   進
            (住友商事株式会社代表取締役社長)

 早いもので、今年は社長就任4年目を迎えます。あっという間に過ぎた3年間でしたが、この間、リーマンショックや新興国の目ざましい台頭等々、歴史的出来事として残るであろう大きな変化の中での仕事でした。社長就任早々は、米国でのサブプライムローン問題等、経済に翳りが見え始めたところで「変化をチャンスに、チャンスを成長に」というメッセージと共に、どのような変化が起きてもすべて前向きに捉えて、元気にチャレンジして行こうと社内に呼びかけました。その後2008年9月以降に起こったことは、予想をはるかに超えるものでした。どのような経済環境の変化があっても、その大きな波に翻弄されないように、地域・分野に偏らないバランスのとれたビジネスポートフォリオを目指して経営を続け、その効果は着実に現れていると評価していました。しかし、結果は、すべてのビジネスが一気に半減する程の大きな落ち込みでした。経営の方向性としては間違っていなかったと思っていますが、経営の難しさ、厳しさを改めて思い知らされる大きな変化でした。
 ここで、まだ浅い経験ながら、会社経営について思うところを少し語らせて頂きます。就任以来、一番大切に思っていることは「経営理念」の周知徹底と実践です。会社がどのような考え方の下、どういう方向に進むべきか、又、進もうとしているかを先ず社内で確認し合い、社会にもそれを透明性高く発信して理解して頂くことは、会社としての社会的責任を果たす為にも欠かせない仕事です。そのバックボーンになるのが「経営理念」です。
 住友商事の経営理念は、住友家初代・住友政友が400年前に事業を始めるに当たって大切なことを書き留め、取りまとめた「住友の事業精神」にまで遡ります。私の頭にも、入社以来この「住友の事業精神」の代表的な4つの項目、すなわち「信用」「確実」「浮利を追わず」「進取の精神」がすり込まれています。当社の経営理念は、この「住友の事業精神」を1998年に今日的に見直し、より平易にしたものです。ここでは、その1項目の「健全な事業活動を通じて豊かさと夢を実現する」に触れたいと思います。「豊かさと夢」は、住友商事グループの役職員が仕事と私生活を通じて実現するだけでなく、取引先をはじめとするすべてのステークホルダーが実現出来ることを願うものです。従って我々が遂行する仕事を通じて、色々な所と形で「豊かさと夢」の実現に貢献出来ていることを実感出来ることが最も大切だと思っています。それでは、そういう仕事をする為に具体的に何が必要になってくるかということになりますが、私は、職場(現場)と私が直接のコミュニケーションを通じて、現状の確認と、戦略・方針の明確化と徹底を図ることだと考えています。これを当社では「戦略の現場化」と呼んでいます。会社の方針や私の思いを書面やEメールで伝えるだけでなく、面と向かって話すことで本当の意味での「結果を導く」コミュニケーションになると思っています。こうしたコミュニケーションの時間は、私のスケジュールの中で最優先して押さえていますし、これは海外出張の時にも、駐在員、ナショナルスタッフの区別なく精力的に行っています。私からの一方的な話ではなく双方向の議論になるように誘導していますので、私にとっても参考になる有意義な時間ですし、お互いが熱意を感じ合う瞬間です。
 経営を考える時、勿論、2年間の中期経営計画をしっかりと完遂すること、すなわち足元の実績を着実に積み上げて行くことが大切であり、それで頭がいっぱいになりがちですが、もっと大切な仕事は「10年先、更に100年後のより素晴らしい住友商事」の為に今、何をしておくべきかを考え、手を打って行くことだと言い聞かせています。具体的な戦略は着々と打って行く訳ですが、そのベースになるのはやはり最初に述べた「経営理念」の実践であり、それを受け継ぎ、あらゆることに果敢にチャレンジして行く人材だと思います。従って私のもう1つの大切な仕事は、人材育成だと考えています。
 人材育成には人事部が中心になって行う社内制度、プログラム、環境等々の充実と、それぞれの組織現場が組織構成員の専門性の高度化と経験の広範化等を図ることがあります。この現状確認と改善の為に私が委員長となって、各層のグループメンバーと定期的に「人材育成促進会議」を開いています。これによって、さまざまな問題提起とメンバー間の活発な議論が、より実効的な人材育成プログラムにつながって行くという実感を得ています。このような会議やさまざまな機会を使って役職員とダイレクトコミュニケーションを行うことで、そのこと自体が広い意味での人材育成につながってくれればと、いつも願っています。その為には、自らを日々、少しでも高めて行く努力を怠ってはいけないと言い聞かせています。
 自分を高めるとは言うものの、実際のところ、そう簡単なものではありません。ただ、その努力を続ける上で、昭和45年の入社以来、自分が受けて来た人材育成プログラムを振り返ること、諸先輩から熱心に受けた教えを思い起こすことは大きな力となります。少し具体的な話になりますが、住友商事には、古く伝統的な制度として「指導員制度」というのがあります。これは入社後すぐに配属先で入社3年~10年程度の先輩が新人に対して「指導員」として指名される制度です。そこから1年間マンツーマンで礼儀作法から始まり一般常識、ビジネス知識、ルール等々みっちり教え込まれます。私の場合も、振り返ってみれば、あれだけのことを本当に親身になってよく教えて頂いたと感謝の気持ちでいっぱいですが、指導を受けているその時は厳しいことも容赦なく言われますし、絶えず冷静に感謝しながら学んでいた訳ではありませんでした。ただ生意気な何も分かっていない新入社員に、よく我慢強く接してもらったという思いは強く、6年後に私が指導員の立場になった時は、この先輩の我慢強さだけは見習わなければと言い聞かせながら指導したのを覚えています。指導員制度の利点として、教えられる側の利益だけではなく、教える側の利益があると思っています。人に何かを指導するには、自ら、知識、言動に磨きをかけねばなりませんし、まさに率先垂範が求められますから、そこでその人自身の成長、レベルアップにつながって行きます。まさに一石二鳥の人材育成プログラムだと思います。そこで、私は2年前から、この指導員制度をより実効の上がる形にしたいと思い、指導員になる人が決まった段階で彼(彼女)ら全員に、私が直接話しかけ、何を期待し、どう指導して欲しいかをお願いしています。人を育てるに当たっては、相手からも学ぶ姿勢と、自分のレベルはまだまだ未熟であるという、更なる向上につながる意識が必要であろうと思っています。「人材(財)」がどの企業にとっても大切な資産であることは間違いありませんが、特に我々のような総合商社、グローバルにほとんどの業種、分野にわたって、トレードと事業にチャレンジして行く会社にとって、「人材」は何よりも大切な資産です。この「人材育成」が「経営理念」「現場化」と好循環でつながって行くことが、経営にとって大切なことだと確信しています。
韓非子の中に「下君は己の能を尽し、中君は人の力を尽し、上君は人の智を尽す」という言葉があります。上君にはとてもなれませんが、「人の智」を「現場化」を通じて出来る限り吸い上げる努力は続けようと思っています。残念ながら自分の力だけで走り切れるほどの能力を持ち合わせていませんので、この点では下君にならずに済むのかなと勝手に思っていますが…。

筆者略歴
昭和22年生まれ。京都府出身。昭和45年、神戸大学経済学部卒業、同年、住友商事株式会社入社。米国住友商事会社、本社常務、専務、副社長を経て平成19年、社長就任。同20年、㈳日本経済団体連合会 日本ベトナム経済委員会委員長就任、現在に至る。


◆理事長からのメッセージ 7
 「新しい凌霜会への歩み(その1)」  
                社団法人凌霜会理事長 高  正 弘

 さわやかな青葉の季節を迎えることとなりましたが、凌霜会の皆さまにはお変わりなくお元気にご活躍のことと存じます。
 さて、我が凌霜会も、公益法人改革関連法の主旨に適合した対応策の具体化に向けてその歩みを進める段階に入って参りました。そこで、前号にてお知らせしました検討委員会の提案も踏まえて、去る3月19日の臨時理事会において、凌霜会の内部組織として「公益法人改革対応推進室」を設け、新法人への移行に係る諸々の企画・立案を担当するとともに、同時に設置する「法律・渉外担当」及び「活性化推進グループ」を統括し、その具体化を図ることを決議致しました。また、これに関連する特別予算を平成22年度計画に計上することも併せてご承認いただいたところであります。新組織は準備でき次第順次実施に移し、6月1日をもってすべての組織が稼動することを予定しています。
臨時理事会議事の骨子
⒈新組織の設置(末尾組織図参照)
①公益法人改革対応推進室 室長 一木 仁(昭46経)
 ・諸施策の企画・立案
 ・法律・渉外担当組織及び活性化推進組織の統括
②法律・渉外担当 熊谷 清(昭39営・凌霜会顧問)
 ・新定款の策定はじめ諸々の法律問題への対応
 ・所轄官庁、移行認可行政機関との事前折衝
 ・他事例の情報収集ほか
③活性化推進グループ 
グループ長 石田 雅明(昭42法・凌霜会顧問)
 ・各種同窓会活動の企画・支援
 ・会員、会費の増強

⒉予算
➀新法人への移行を確実なものとするため、必要な特別予算措
置を講ずる
②一般経常予算とは区分管理し、運用の透明性を図る
③財源は剰余金を充当する

⒊その他方向性についての確認事項
①非営利型一般社団法人を目指す
②代議員制を採用し、代議員を法律上の社員とする
③代議員数は正会員100名につき1名を目途とする
④現評議員制は廃止する
⑥理事数は現状比大幅に削減すると共に、ガバナンス機能を強
化する
⑦経常期間収支の早期黒字化を目指す
⑧新法人移行後の剰余金の公益目的支出は、適法先への寄付を
優先し支出計画の短期収束を目指す
⑨2012年4月1日の新法人移行を目指す
今後新組織の稼働に伴い、皆さまのところにも諸々のお願いが参ろうかと思いますが、新しい凌霜会に向けての決意の歩みであることを是非ご理解いただき、格別のご配慮、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
最近、同窓会や各種クラブなどの会員組織の弱体化が指摘されており、その背景には、「会員になることのメリットは何か」「お付き合いで会費を納める時代ではない」といった声があることも承知しています。凌霜会においても、会員の皆さま、とりわけ在学生諸君や若い現役の世代の皆さまに、就職相談、人脈の広がり、自己研鑽などの場を提供し、凌霜会入会の意義を実感していただくことが必要であることは言うまでもありません。今回の委員会報告書の中にもそのような提案があり、できるものから順次具体化していきたいと思っています。
 過日の新聞で「大学の教育課程に職業指導を盛り込むことが2011年度から義務化される」との記事を目にしました。神戸大学においては既にキャリアセンターが活躍されており、他大学に比べて一歩先行していることは間違いありませんが、近い将来、同窓会と大学がこの面での協働関係を更に強めていく局面があるのではないかと思っています。
 今般、新しくスタートした「活性化推進グループ」のご尽力で、来る5月19日、昭和45年に経済学部を卒業された阪神電気鉄道株式会社の坂井信也社長様に講師をお願いし、社会人になるに当たっての心構えを中心に第一回の「凌霜準会員セミナー」を開催する運びとなっております。これを契機として、より幅広い皆さまを対象とした会員間の「つながりの場」を引き続き演出して参ります。
 このような動きに弾みをつける意味からも、会員の皆さまに是非思い出していただきたいのが、青春時代を共に過ごした地元兵庫・神戸に対する想いと母校への愛着であります。損得を超えて、同じ学窓に学んだ人と人との「絆(きずな)」の有形無形の価値であります。六甲台を目指した同志・在学生が、改めて地元兵庫・神戸の歴史や、神戸高等商業学校以来の歴史に触れる機会を用意する必要があると思っています。
 なぜ、もともと阿波徳島藩の領地だった淡路島が兵庫県の一部となったのか、旧居留地が神戸の近代化に果たした役割はいかに大きなものであったか、一時は三井・三菱に迫る勢いの「鈴木商店」の盛衰はどのようなものであったか、わが国2番目の高等商業学校が大阪ではなくなぜ神戸に設置されたのか、等々について、入学後の早い段階で学部の枠を超えて学ぶ機会を大学当局にご検討いただくようお願いしたいと思っています。各地の同窓会においても同様の機会を積極的にお考えいただければ幸いであります。
 人生・社会における人と人とのつながりの効用については今更述べるまでもありませんが、今、義務教育界で話題となっている事象をご紹介し会員諸兄姉のご賛同を得たいと思います。昨年3回目となった小中学生を対象とした「全国学力、学習状況調査」に関連して、児童・生徒と家庭や地域社会とのつながりの強弱と地域の学力との間に強い相関関係があるのではないかということが今注目されています。ある大学教授は、これを、学力格差はかつての「都(と)鄙(ひ)格差」から「絆格差」に移行したと昨年暮れマスコミに寄稿されています。昔懐かしい「銭湯」が、ご近所交流の場として見直されているといった記事も目にします。これからの社会を生き抜いていく上で、「つながり」「絆」といった言葉の持つ意味が益々大きくなってくる、そのような時代がきているのではないかと思っています。
 翻って、凌霜会にとっても関係者のつながりの強化こそが、今日我々が直面している課題解決策の基本になければならず、公益法人改革対応への王道であると信じます。卒業年次別、所属クラブ別、地域別、職域別など多様なくくりでの同窓会活動が活発化するよう、新法のもとで再スタートする社団法人凌霜会がお手伝いすることをお約束すると同時に、それを確かなものとするため、新凌霜会の役職には各年代の皆さまにバランスよく就任していただくことが大事ではないかと考えています。
 国立大学の法人化後、国からの運営費交付金が縮減される一方で競争的資金のウエイトが高まっています。経済誌「週刊ダイヤモンド」の2月27日号に、競争的資金の代表格である「COE」及び「GP」制度が創設されて以来の大学別獲得累計額の記事があり、母校は両項目ともに全国で11位にランクされ、その教育・研究水準の高さが示されていました。より高いところを目指して欲しいものでありますが、そのためにも同窓会の一層の活性化を実現し、大学との連携を更に強めていく姿勢が必要であります。
 先日、会費未納会員の方々向けに私からのお願い状を送付するに際して、六甲台社会科学系4研究科長、1所長連名の応援文書を同封させていただきました。ありがたいことに、大学の先生方にも凌霜会の存在を高く評価していただき、会員・会費増強に一緒になって汗を流していただいています。
各位の一層のご理解とご支援をお願い申し上げます。


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