凌霜第391号 2011年10月28日

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凌霜三九一号目次
◆巻頭エッセー 混沌としたグローバル金融経済の行方
        “新しいグローバリゼーション”への対応 森 口 隆 宏 
◆母校通信                         田 中 康 秀
◆六甲台だより                       吉 井 昌 彦
◆理事長からのメッセージ13
 「新しい凌霜会への歩み(その7)」          高 﨑 正 弘
◆凌霜俳壇  凌霜歌壇
◆学園の窓
  つながりと成長                      松 尾   睦
 「法科大学院雑感」                   八 田 卓 也
  コンピューターと私の仕事 難 波 明 生
◆凌霜ゼミナール 福島原発事故による放射線被ばく小 田 啓 二
◆学生の活動から
 東北大学への義援金                   加 藤 真 也
 第6回神戸大学六甲台七夕祭              藤 本 良 太
◆六甲台就職情報センター NOW
 「六甲台就職情報センター」の現状           浅 田 恭 正
◆表紙のことば プラハ城を望む(チェコ)        本 間 健 一
◆リレー・随想ひろば
  雑感「人間は笑う動物である」             西 谷   淳
  ドアの外へでかけよう                  植 村   茂
  大震災に思う 荒 木 一 郎
  未曽有の大震災の被災地を体感して        荒 堀 祥 伍
◆本と凌霜人 「誰にでも分かる刑法総論」       抜 山 映 子
◆支部通信 東京、大阪、神戸、福岡
◆メルマガ「凌霜ビジネス」ヘッドライン          柿     聰
◆神戸大学ニュースネット委員会OB会
◆追悼
  恩師・海道 進先生の思い出              奥 林 康 司
  三輪吉郎君を偲ぶ                    新 野 幸次郎
  上田善弘君を偲んで                   宮 本 靖 彦
  小松健一君を偲んで                   竹 谷   清


<抜粋記事>

◆巻頭エッセー
  混沌としたグローバル金融経済の行方
   “新しいグローバリゼーション”への対応
                昭42経 森  口  隆  宏
               (JPモルガン証券株式会社会長)
 昨今の日本を取り巻くグローバルな金融経済情勢は一層不透明感を強め、混沌としてきました。戦後65年経ち“長期サイクル的にも構造的にも大きな転換期”に入ってきているようです。このような問題意識のもと、限られた誌面ですが、私のような現場に近い人間の皮膚感覚的な見方も何らかのご参考にしていただけるかなとの思いで、少々大袈裟な表題をつけてみました。
 さて、新聞、メディアでは毎日のようにグローバルな金融経済情勢が報道されています。米国経済動向、欧州債務問題、金融システム問題、エマージング国の成長鈍化、通貨問題などで、しかもそれらが相互に連関しているだけに事柄を一層複雑にしています。市場はこれらの動向に一喜一憂し、乱高下しながらも、案外冷静に長期的、構造的トレンドを見据えているようです。以下主要テーマごとに私見を述べさせていただきたいと思います。

 米国もついに構造的ゼロ成長経済に突入か

 最近2度ほどニューヨークに立ち寄る機会がありました。面談した数人の米国人は、ややためらいながらも、アメリカは大丈夫と自分に言い聞かせるように話していたのが印象的で、思わず15年ほど前の日本の状況と重なりました。“日ごろのアメリカらしさ”が影を潜めていました。
 確かに米国経済は、財政赤字が膨らむ中、景気の急減速、打ち続く住宅価格の低迷、高い失業率、減殺された消費行動など時間のかかる課題が多く、日本シンドロームの様相を呈し始めていることは事実です。一方彼らは、当時の日本との相違点として、まずアメリカは現状の問題点、課題なりをかなり正確に把握しているという点を挙げています。加えて米国の金融システムの健全性、ドル安政策とインフレに支えられた企業業績の安定性、財政赤字圧縮余力などの諸点を強調しています。いずれにせよ、事態の急回復は難しいと見ていますが、前記の諸点も踏まえると大きく底割れすることはないのではないでしょうか。ただ、ぎりぎりの状態だけに中国のバブル崩壊とか、欧州債務危機の更なる深刻化などの事態発生に対する耐性は強くなく、まだまだ流動的です。
 アメリカ国債の格下げなどアメリカの地盤沈下が言われます。しかしながら、やや長い目で見ると、昨今のように“グローバルな経済社会の混迷”が一層強まる中で、“新しいアメリカの力”があらためて求められてくるのでないかと感じています。

 EU主要国の債務問題と欧州金融システムの弱体化

 ギリシャに代表される欧州諸国の債務問題は、1998年のアジア危機とは異なり、“成熟国の財政赤字問題”という新たな課題を突きつけていると言えます。ギリシャ自体は小国ですが、EU当局を含めその対応に手間取っています。EUグループ内とはいえ他国の赤字を自国の税金で救済していくという、なんとも悩ましいテーマが横たわっているわけです。ギリシャ問題の解決が何よりも大事です。もし今後イタリア、スペインあたりに同様の問題が広がってくると、債務も巨大で世界経済的にも相当深刻な事態になりそうです。展開によってはEU存続を脅かす事態も想定されるなど、まさに“EUの鼎の軽重”が問われているわけです。今後紆余曲折はあるでしょうが、EU崩壊の蓋然性という意味では“新たな落としどころ”が出てくるのではないかと比較的楽観視しています。
 欧州債務問題に関連して欧州の金融システムの脆弱性が俎上に上っています。欧州主要行の資産規模が本店所在国のGDPの規模を凌駕するに至っており、将来の金融システムの崩壊を国が支えきれないという“究極のシステミックリスク”を内包し始めているわけです。"too big to save„状況に立ち至っており、当面目が離せません。

 リーマンショック後の新たな金融システムへの模索

 リーマンショック後の金融システムの再構築という課題は、いまだ道半ばと言えます。特に欧州の銀行は、時間をかけて問題を解決しようとした矢先での債務問題の噴出です。リーマンショック後、大手欧米金融機関は厳しい経営批判に晒されてきており、当局規制も徐々に強化されています。加えて現下のゼロ成長、ゼロ金利、ましてデフレとなれば金融機関が収益を上げるのは大変厳しいと言わざるを得ません。
 金融機関批判には的を得ている点もありますが、銀行を取り巻く営業環境悪化の中で、今後銀行が適正な利益を上げられないとなると、結果として金融機能、サービスの低下という悪循環に陥るわけで、銀行経営者のみならず各国当局にとっても、収益問題は悩ましいテーマとなってきています。

 中国を代表とするエマージング国の成長鈍化

 マクロ経済的にはここ数年、成熟国の有効需要減少を、中国をはじめとするエマージング国が賄ってきたわけですが、中国などの成長鈍化が懸念され始め、グローバルな事態を一層複雑にしています。中国については貧富の格差拡大などで、国家運営は確かに難しくなってきているようです。しかしながら重要なことは、中国が依然として13億の民を一国としてまとめ、大きな経済成長を続けているという現実を過小評価しないことだと思っています。間違っても中国の事象を欧米流の価値観、物差しで単純に評価してはいけないと常
々思っています。気を揉みながらも中国のことは彼らに任せるしかないということでしょうか。

 日本と新しいグローバリゼーション

 日本は食糧自給率40%、石油資源海外依存率80%という体質に加え、海外生産比率もここへきて急上昇しています。いわばわが国は安定した国際社会とグローバルな経済発展に大きく依存してきており、またその利益を誰よりも多く享受してきた国と言えます。
 しかしながら昨今、エマージング諸国の追い上げに加え、低成長と財政赤字に悩む先進主要国はG7の場などでの協調を模索する一方で、なりふり構わず自国民の生活向上と国の存亡をかけて熾烈な国際競争を展開し始めています。いわば“新たなグローバリゼーション”が現出しつつあると言えます。既に一部の日本企業はこれらの動きに対応を始めていますが、国も含め一層のスピード感が求められています。
 日本は打ち続くデフレ、ゼロ成長の中で苦節20年、ようやく生き残る知恵と耐久力をつけてきたように思います。ここからは、頭を切り替え“成長なくして財政再建なし”という基本に立ち返り、本気で国際競争力を高め成長戦略を確立する必要があり、それ以外にサバイバルの道はなさそうです。

 まとめ

 1990年以降、世界経済は産業革命をも凌ぐ空前の情報技術革新やエマージング国の台頭などのおかげで、何とか成長をやりくりしてきました。しかしながら、ここにきてエマージング諸国が踊り場にさしかかる中で、環境、新エネルギー、医学など新たな技術革新が期待されますが、成長軌道への貢献には、なお日時を要するのではないでしょうか。
 一方、昨今のコンセンサス重視の政治決定の枠組みの中で、成長戦略、増税、歳出カットのバランスド アプローチは困難さを増し、主要各国に共通する時代的テーマになりつつあります。かかる成長と財政赤字のジレンマの中で、各国はどうしても国益が前面に出やすく、また国家運営も自由経済主義からやや国家管理型の傾向が強くなりつつあるようです。
 われわれにとって、かかる新しいグローバリゼーションへの対応は、まさに未知との遭遇と言えそうです。昔のように戦争への突入といった荒っぽい経済調整は避けなければなりませんが、経済恐慌、ハイパーインフレの発生など一つ間違うと陥りかねないリスクを潜めているだけに、主要各国の冷静、沈着な対応と英知の結集が望まれるのではないでしょうか。
 この巻頭エッセーは9月10日に起稿しました。「凌霜」11月号発行の段階で、前記の諸点は果たしていかなる展開を見せているのか、楽しみでもあり不安でもあります。

筆者略歴
 1944年生まれ、神戸市出身。67年神戸大学経済学部卒。同年東京銀行入行。ニューヨーク、ロンドンなど海外勤務のあと、2002年米国ユニオンバンク頭取に就任。04年三菱東京UFJ銀行副頭取就任。06年JPモルガン証券㈱会長兼CEOに就任。07年より現職。

◆理事長からのメッセージ 13
   「新しい凌霜会への歩み(その7)」
               社団法人凌霜会理事長 高 﨑 正 弘

 秋冷を感ずる昨今ですが、会員の皆さまにはお元気にお過ごしのことと存じます。平素は凌霜会活動に格別のご理解とご支援を賜り誠にありがとうございます。
 今年もやがて、10月29日に第6回のホームカミングデイが出光佐三記念六甲台講堂を中心に開催され、多くの学友の皆さまが参加されることでしょう。キャンパスのあちこちで、旧交を温め合う光景を透して見える六甲の山並みを背景に、眼下に大阪湾を望む母校の立地の素晴らしさは格別であります。
 六甲台を訪問される他大学関係者が、異口同音に立地と雰囲気の良さを称賛されることに胸を張る思いが致します。今回のホームカミングデイに残念ながらご参加いただけなかった皆さまも、是非機会を捉えてお訪ね下さい。きっと在学時代の思い出が甦り、その光景にご満足いただけると同時に、人生の宝物ともいえる母校・同窓生との絆を再確認されるものと信じます。

 最終コーナーを迎える新法人への取り組み

 さて、会員諸兄姉のご協力を得て進めて参りました「新しい凌霜会への歩み」も、第7回をご報告する段階に至りました。昨年の春以来、公益法人改革対応推進室を立ち上げ、法律・渉外担当及び会員増強担当両顧問のご尽力を推進力とし、大学の先生方を交えた移行認可対応事務担当チームのサポートを得ながら、一歩一歩新法人への移行準備を進めて参りましたが、来年4月1日の新法人の登記に向けて、この度、いよいよ最終コーナーを迎えることになりました。
 即ち、新法人の法律上の「社員」として位置付けられている代議員の選出も9月早々に滞りなく終了し、先の会員総会でご選任いただいた新法人の理事、監事と併せて、新法人の組織作りは完了致しました。この会誌が皆さまのお手元に届く頃には、内閣総理大臣への正式な移行認可申請の段階に至っているものと期待しています。
 この度選出された皆さまからなる代議員会は、新法人における役員の選・解任、予算・決算の承認、定款の変更等の重要事項の決議機関と位置付けられており、それだけに、透明性高い公正な選挙は、制度そのものの根幹を担保するものであります。加えて、正会員の皆さまのご意向を凌霜会の運営に十分に反映するためには、その代表である代議員の地区別・年代別バランス等にも配慮したものでなければなりません。
 節電モードの厳しい暑さの時期に、幾度となく六甲台に足を運んでいただき、代議員選挙をスムーズにお運びいただきました堀委員長はじめ代議員選挙管理委員会の皆さま、及び凌霜会の組織の強化と将来の発展を見据えて代議員候補者を選出いただきました平松委員長以下候補者選考委員会の皆さまには、誌面をお借りして改めて厚くお礼を申し上げます。以下、代議員選挙の経過を要約してご報告致します。
 まず、法令及び定款案に定める「会費の支払い義務」を履行して選挙権及び被選挙権を有する正会員の人数は、本年7月末現在(会費納入期限)、7、772名と確定致しました。次いで、この人数を基に、定款案に定める「概ね正会員100名の中から1名の割合」の規定に従い、今回の選挙で選出すべき代議員の定数を80名と決定致しました。
 続いて、候補者選考委員会が75名の候補者を選定し、これに加えて、自薦立候補者を募集致しました。その結果、今回は自薦の方も含め立候補者総数が78名となり、定数の範囲内に留まりました。
 選挙管理委員会は、立候補締切日の翌日の9月13日に委員会を開催し、代議員選挙規則に従い、正会員の皆さまにご投票いただくことなく、立候補者全員の当選を決定致しました。
 当選されました代議員の皆さまの氏名、卒業年次等の詳細は、9月13日付で凌霜会本部掲示板に告示され、また、ホームページにも掲載されています。なお、念のため、この会誌にもその詳細を「お知らせ」として同封致しておりますので、適宜ご覧いただきたいと存じますが、代議員の地区別分布は、兵庫(神戸・本部・大学関係)32名、大阪17名、東京16名、東海・京滋各3名、北海道・東北・北陸・岡山・広島・四国・九州各1名の計78名であります。
 また、卒業年代別では、昭和20年代5名、30年代14名、40年代32名、50~60年代18名、平成年代9名となり、現在の評議員の分布に比べると、随分と若返りが進んだと言えます。
 今後は、これまでご説明して参りました通り、10月に内閣総理大臣宛て申請→平成24年3月中旬の移行認可取得→4月1日一般社団法人凌霜会設立登記→東京・大阪両支部の登記→平成24年度中の公益財団法人六甲台後援会への公益目的財産の寄附(特定寄附という)→平成24年度決算報告による内閣総理大臣への特定寄附実施報告、以上をもって一般社団法人への移行作業は完結することになります。
 残る永遠の課題は、凌霜会の一層の活性化と、それを支える会員・会費収入の拡充強化であります。引き続きこの課題に真正面から取り組んで参る所存でありますので、会員の皆さまのなお一層のご理解ご協力をお願い申し上げます。

 枡田元監事の御霊に心からの感謝を

 ところで、凌霜会の監事を長年に亘りお務めいただき、我々後輩にも分け隔てなく親しくお付き合いいただき、ご指導を賜りました昭和29年経営学部卒業・同31年経営修士修了の枡田圭兒さんがお亡くなりになって1年が経ちました。昨年の総会に、お疲れのお体をおしてご出席いただき、監査報告をしていただいたお姿を未だ忘れることができません。
 そのご遺族から、故人のご遺志として、凌霜会に100万円という多額のご寄付をこの度頂戴致しました。ご厚志は、関係者と相談の上、凌霜会活性化の礎となる会員及び会費収入の管理ソフトの強化に活用させていただき、末永く我々の記憶にとどめることが、故人のご遺志に沿うことになると判断させていただきました。
 最後まで凌霜会、母校を愛されて止まなかった亡き枡田さんのご冥福を改めてお祈り申し上げますと同時に、ご遺志に背くことなく、凌霜会を益々発展させることをお約束し、お礼に代えたいと思います。ありがとうございました。安らかにお眠り下さい。