凌霜第393号 2012年04月29日

No393.jpg凌霜三九三号目次
◆巻頭エッセー 変わりゆく大学でわれわれは
 何をしようとしているのか                     品 田   裕
◆母校通信                              田 中 康 秀
◆六甲台だより                           吉 井 昌 彦
◆理事長からのメッセージ15
      「新しい凌霜会への歩み(完)」            高 﨑 正 弘
◆(公財)六甲台後援会だより(28) (公財)神戸大学六甲台後援会事務局
◆学園の窓
 経営学部・経営学研究科の近況                 水 谷 文 俊
 経済経営研究所長就任にあたって                浜 口 伸 明
 経済変動をどのように考えるか                  橋 本 賢 一
◆凌霜俳壇  ◆凌霜歌壇
◆六甲余滴 バルカン半島を歴訪する              宮 崎 徹 夫
◆大学文書史料室から(2)                     野 邑 理栄子
◆六甲台就職情報センター NOW 宝を見つける       有 本 秀 樹
◆リレー・随想ひろば
 ジャパン シンドローム(日本症候群)             大 屋 統貴夫
 3・11とドイツの子供達                      木 村 鈴 子
 ぜんぶ馬のはなし                         新 垣 恒 則
 還暦を迎えて想うこと                       大 樫 徹 男
 神戸大学を卒業して                        中 山 貴 博
◆本と凌霜人 「移植医療マネジメント―プロフェッショ
           ナリズムが医療を動かす―」         上 林 憲 雄
◆メルマガ「凌霜ビジネス」ヘッドライン              柿     聰
◆神戸大学ニュースネット委員会OB会
◆追悼
 高木二郎氏を悼む                         郷 原 資 亮
 伊地知 朗兄を偲ぶ                        市 島 榮 二
 北山 武君逝く                           天 野 昭 信
◆編集後記                              吉 井 昌 彦


<抜粋記事>
◆巻頭エッセー
  「変わりゆく大学でわれわれは何をしようとしているのか」
               法学研究科副研究科長 品  田     裕(ゆたか)
 いきなり個人的なことで申し訳ありませんが、この春で研究者になって25年が過ぎました。25年というと一区切りの感がありますが、この世界では、まだまだです。ただ、数年前まで全く考えたことのなかったゴールを考えるようになったのも事実です。そのせいでしょうか、以前から言ってきた「研究者人生=士農工商4段階」説というのを、この頃、口にしなくなりました。これは、研究生活の最初の段階では志の高さが重要(士)で、次によく耕して懐をひろげ(農)、やがて適齢期になると生産にいそしみ(工)、そうやって業績が増えると、研究や他のことも含め、ネットワークの中で交流するようになる(商)というものです。自分の周りの先生方を寄せ集めて、幸せな研究者像として思いついたのですが、われながら言い得て妙だと思っていました。しかし、最近は、そろそろ成果を問われる年頃になったせいか、自分にあてはめると都合が悪いので、あまり触れなくなった訳です。
 私自身は、政治学、とりわけ選挙に関する制度や現象を研究しています。どんな研究者も一度か二度は、自分の研究テーマが社会的な注目を集めることがあるといいますが、私の場合は、いきなり90年代の選挙制度改革で、社会問題と自分の関心が重なるという経験をしました。その時は、全くの駆け出しで、なす術もなく傍観するばかりでした。その後、大きな波はもう来ないと思っていましたが、最近、また選挙やその仕組みが少し話題になってきたようです。しかし、以前、世間では改革に向け溢れんばかりの熱気が満ち満ちていましたが、今は、虚無感と不信で荒涼としているように感じます。そのためか、しばしば、精確な知識の欠如、あるいは思わぬ陥穽の見過ごしを危惧しています。
 例えば、昨年、最高裁は衆議院の定数配分に違憲判決を出しました。細かい話になりますが、少し説明させてください。ご承知の通り、現在、衆議院の選挙区定数は著しく偏っており、是正が望まれています。現行法では、各都道府県に予め1議席を与えた(一人別枠方式といいます)後に、人口に比例して定数を割り振ります。この時、比例代表の一種であるヘアー式というのが使われています。最高裁は、一人別枠方式を違憲と断じ廃止を求めたのですが、実はこれを維持しても比例代表の方法をヘアー式からドント式に変えれば、非常に良好な状態に回復できたのです。しかし、このことが裁判所内外で検討された形跡は見当たりません。
 あるいは、「連用制」という言葉が最近よく報じられています。これは前記の違憲判決を受け、衆議院の定数是正が話し合われていましたが、いつのまにか比例区の定数を削減することになり、代わりに中小政党の顔を立てるというので、出てきた話です。中小政党に有利というので、一見、悪くない制度に見えますが、現在、提案されている方式では、予想外のことがかなり高い確率で起こりえます。しかし、そのことはあまり知られていません。後から、それは「想定外」だったというようなことが少しでも減らせるように、限られた範囲内ですが、研究成果を発信していきたいと思っています。
 私たち大学教員にできることには、もう一つ教育があります。この25年間に、大学の授業もすっかり様子が変わりました。かつてはレジュメを使う先生は殆どおられませんでしたが、今はもう必須で、パワーポイントを駆使した講義も多くなりました。少人数教育も増えています。以前は全人的なゼミがあるだけ(それで十分だったのです)でしたが、今は多様化し、機能的にも分化しています。その上、AP、DP、CP、GPA、CAP(こうしてみるとクイズみたいです)と制度化が進んでいます。授業評価アンケートもあるので、個人的には私も話し方や授業の進め方を少しは工夫しようと心がけています。少人数授業については、NHKの「スタンフォード白熱教室」(他の白熱教室シリーズより私はこちらです)や明石家さんまさんの番組を見て勉強しています。いかにして決められた中で言いたいことを上手く伝えるかを考える際に、これが結構、参考になるのです。
 法学研究科・法学部も変ってきました。近年の変化で、まず思い起こされるのは法科大学院ですが、全国に伍して健闘していることはご案内のことと思います。今日は、他にわれわれが行っている試みについてご紹介します。というのも、あるプログラムに参加した当の学生から、何をしているのか周知が全然足りないと指摘されたばかりで、早速、この場をお借りしてお伝えしたいと思います。
 以前から、法学研究科では、外部資金を獲得して、あるいは六甲台の他部局と連携して、さまざまなプログラムを実施してきました。ヨーロッパ連合(EU)に関する研究教育拠点を構築するEUIJ、大学院教育を実質化する魅力ある大学院教育イニシアティブ、経済学との連携を目指す法経連携プログラム、ジャーナリストの方法と問題意識を身につけるジャーナリズムプログラムなどです。昨年度からは、国際公共人材育成事業としてパブリックコミュニケーションセンター(PCC)を運営しています。これは一昨年度まで実施していた学部教育GP(「21世紀型市民としての法学士育成計画」)の拡充版といったところです。ちなみにGPというのは、グッドプラクティスの頭文字だそうです。私は生まれてこの方、善行などした覚えはないのですが、何度も見聞きし自分でも口にしている間に、良いことをしている気になりました。こわいものです。
 それはさておき、このPCCですが、何をしているのかといいますと、学部学生と大学院生のコミュニケーション能力涵養を目的としています。近年の学生のプレゼンテーション能力は、ゆとり教育の賜物か、格段の向上を見せています(何かの能力を喪失すると他の何かを獲得するという訳ではないのでしょうが)。しかし、それ以上に「説明」を求める世間のハードルが上がったせいか、この方面の社会的需要は高く、学生自身も歓迎する傾向にあります。そこで、PCCという組織を置き、日本語と英語の両方でコミュニケーションができる人材を育成しようとしています。もちろん六甲台で学ぶわけですから、高い専門知識が前提であることは言うまでもありません。日本語・英語で専門科目授業を展開し、また、プレゼンに悩む学生の相談に応じる体制をつくっています。昨年度は、日英両国語での発表会やフィールドトリップも行いました。PCCでは社会科学を学ぶ学生にあった手作りのプログラムを今後も模索していくつもりです。
 このPCCもそうですが、法学研究科・法学部では、以前から「民にあって公を論じる」人材を育てたいと考えてきました。最近は、幕末の改革熱をもう一度という風潮をよく見聞きしますが、いわば、現代の適塾(隣の大学に叱られそうです)になって、専門性を背景に議論のできる人を輩出できればと、誠に青くさいことを言って恐縮ですが、そう夢見ています。そして、法曹養成に加え、これからの法学政治学教育のもう一つの柱になるのではないか、六甲台で学んだことを積極的に発言してくれるのではないかと期待しています。そうなれば、私たちの研究もより広く伝えることができます。
 今年度から六甲台には社会科学系連携府が誕生します。六甲台5部局が連携して、最先端の研究・教育に挑もうとするものですが、最先端に行くほど高度な専門性が求められる一方で、これを支える幅広い素養が部局の垣根を越えて必要となるのでないでしょうか。法学研究科もいくつかプランを用意していますが、それも含めて、このPCCがその下支えになってくれればと思っております(詳しくはHPをご覧下さい)。
筆者略歴
1963年、京都市生まれ。1987年、京都大学卒業。1990年、神戸大学法学部助教授、2000年、同大学院法学研究科教授、現在に至る。2012年、副研究科長。専攻は政治過程論(選挙研究)。


◆理事長からのメッセージ 15
      「新しい凌霜会への歩み(完)」
                 一般社団法人凌霜会理事長 高 﨑 正 弘
Ⅰ 新しい時代に向けて
 今年の冬はことのほか寒さの厳しい日が続き、それだけに、春の訪れを例年以上に待ち焦がれる毎日でした。特に、東北の被災地の皆さま方にはその想いが強かったことと拝察致しますと同時に、昨今の五月晴れのよい季節を、お元気にお迎えになっておられることを願うのみです。
 さて、今年に入って「秋入学」をはじめとして、10年前にスタートした「大学改革」、いわゆる「遠山プラン」が、8年前の国立大学法人化に匹敵するインパクトを伴って、新たなステージへ移行したことを実感させるようなニュースが相次ぎました。このような環境下、明治35(1902)年に神戸高等商業学校として創立された母校神戸大学は、今年110周年を迎えます。この記念すべき年に当たり、「神戸大学ビジョン2015」の下で推進されてきた研究・教育分野における「グローバル・エクセレンス」の実現に向け、その学内外の動きを一層加速されることを強く期待したいと思います。
 一方、我が凌霜会は、大正13(1924)年9月12日に設立され、今年で88年を迎えることとなります。この間、民法第三十四条により認可された社団法人凌霜会として運営して参りましたが、平成20年12月に施行された新しい公益法人法の下で、同25年11月末までに新しい制度に移行することが求められ、期限までに移行が完了しない場合は解散したものと見做されることになりました。凌霜会は、約3年間に及ぶ準備期間を想定し、内閣総理大臣の移行認可を前提に、平成24年4月1日付けで、「一般社団法人凌霜会」に衣替えすることを目指して参りました。
Ⅱ 一般社団法人への移行
 去る2月10日、社団法人凌霜会の一般社団法人への移行につき、公益認定等委員会より移行認可が法規に照らして適当である旨の答申が出され、この会誌が皆さまのお手元に届く頃には、3月21日の認可書の受領、4月1日の旧社団法人の解散の登記と一般社団法人の設立の登記が予定通り完了していることと思います。以下これを前提にご報告します。
 新法人の会計年度の始まりは、過去との継続性も考慮し、引き続き4月1日にしたいという凌霜会の願いは、内閣府における移行認可日の調整、法務局における4月1日(日)の登記受付等の関係当局のご配慮で、これを達成することが出来ました。今から3年前の春、「公益法人改革対応委員会」を立ち上げ、委員の方々はじめ多くの凌霜会員や関係者のご理解、ご支援を得て、法律上の移行期限まで1年半余りを残し、予定通り目的を達成することが出来ました。改めてご尽力賜りました皆さま方に厚く御礼申し上げます。
 今後は、平成23年度決算で最終確定する公益目的財産(企業会計の純資産にほぼ相当するもので、この出稿時点での見込みは約4、100万円)を、移行認可申請書記載の通り、24年度中に公益財団法人六甲台後援会へ寄付し、平成24年度決算をもって公益目的支出計画が完了したことを内閣総理大臣宛に報告することにより、移行に関する一連の作業は完了することになります。なお、この公益目的財産は、行政庁の財産規制を受けて同窓会事業等には使用出来ず、公益目的事業に自ら費消するか、あるいは、公益法人・地方公共団体・国へ寄付するかに使途が制限されており、凌霜会は後者を選択致しました。
Ⅲ 新法人の活力ある運営を
1 活力ある事業展開と事業活動の深化
 凌霜会はこれまで、同窓会事業としての会誌の発行、メルマガの配信、準会員の就職活動の支援、会員向けのセミナー、会員相互の連絡及び研修などの事業を行う一方で、公益目的事業として、教育の充実・学術研究の促進に対する助成事業を併せて実施して参りました。今後は、六甲台後援会への寄付と併行して、これまで担ってきた6分野の公益目的事業の内、凌霜会員と密接な関係にあり凌霜会として必要性が高い2分野の事業は引き続き凌霜会に残し、その他4分野の事業は六甲台後援会に移譲することと致しました。これにより、凌霜会は同窓会事業(共益事業)、六甲台後援会は公益事業と役割をより明確にし、それぞれの担当分野の活動をより深化させると同時に、一方で、協働関係を通じてより効果的な活力ある事業展開を目指します。
凌霜会に残す2分野の事業
・関西ビジネスケースコンペティション開催支援
・三商大ゼミ討論会支援
 このほか、従来実施してきた準会員の就職活動支援や開学記念祭 (六甲祭)の支援は引き続き凌霜会が担当します。
六甲台後援会に移譲する4分野の事業
・各種学会の開催及び参加支援
・研究論文集「六甲台論集」の発行支援
・EUIJ関西の運営支援
・国際模擬商事仲裁大会の開催及び参加支援
2 組織運営体制の強化
 新法人の活力強化に向けては、本部の企画・調整力を強化するため、東京・大阪地区をご担当いただく既存2名の副理事長に加えて、本部事務局を管掌する副理事長1名の増員をこの5月の新法人最初の理事会でお諮りしたいと考えています。過去にもその時々の必要性に応じて、3名副理事長体制が採用されたことがあり、理事の方々にもご理解いただけるものと思っております。また、長年凌霜会の運営にご尽力いただき、また、今回の新法人への移行に関しても主導的役割を果たしていただいた柿事務局長が新法人への移行を機に勇退され、後任に一木室長が就任し、大幅な若返りを図りました。
3 東京支部及び大阪支部の法的位置付けの明確化
 凌霜会の東京、大阪の両支部は、法律上の位置付けを明確にすると同時に、1年前に法人化された神戸大学東京六甲クラブ及び大阪凌霜クラブと凌霜会との結節点としての更なる役割を期待し、5月の理事会で凌霜会の法律上の従たる事務所としてご承認いただく予定です。これに照準を合わせて、既に東京・大阪の代表を含む以下に記載の6名の委員の方々に、細部の設計を進めていただいています。(役職名は3月10日現在・順不同)
 本部関係…平松理事(座長)、柿常任理事・事務局長、熊谷顧問、一木理事・室長
 東京代表…野崎東京支部常任幹事 兼 東京六甲クラブ理事・事務局運営委員長
 大阪代表…西浦凌霜会理事 兼 大阪凌霜クラブ副理事長
 このことにより、東西両クラブの主要年間行事への協賛などを通じ、凌霜会とクラブの連携に遺漏なきを期します。
4 会誌「凌霜」の改革
 新法人移行を契機とした会誌「凌霜」の見直しは、既に大学、会誌編集委員、六甲台学生評議会、公益法人改革対応委員、事務局の関係者合計10名体制で検討を始めていただいております。この委員会からの答申を受けて、B5判の採用、活字の大型化、さらに編集内容など多岐にわたる見直しを行い、準会員からご高齢の会員の皆さままで、幅広い層に見やすい、より有意義な内容をご提供したいと考えています。会員それぞれに想い入れのある長い歴史を誇る会誌ですが、時代の変化に合わせてやるべき改革はしっかりとやって参ります。熟議を重ねて、遅くとも来年2月の新春号は、新しいスタイルで皆さまにお届けしたいと思っております。なお、委員をお務めいただいている皆さんは、次の通りです。
 会誌「凌霜」検討委員(敬称略・順不同)
大学…吉井昌彦(座長)、鈴木一水
会誌編集委員…絹巻康史
学生評議会関係者…隅野康太、朝田恵太
公益法人改革及び事務局関係者…平松秀則、石田雅明、堀ろく郎、一木 仁、堀口雅一
Ⅳ 終わりに
 一般社団法人への移行認可の取得、一般社団法人凌霜会のスタートという当面の大きな課題はクリアすることが出来ました。これをもって、理事長からのメッセージ「新しい凌霜会への歩み」のご報告は終了させていただきますが、時代の変化に対応した継続的な事業内容の見直し、会員の増強及び会費の増収など、凌霜会が必要とする改革に終わりはありません。
 変わらぬご支援、ご協力を宜しくお願い申し上げます。