凌霜第396号 2013年01月30日

凌霜三九六号目次
◆理事長からのメッセージ(16)   高 﨑 正 弘
◆巻頭エッセー 超高齢社会を考える   松 尾 憲 治
目 次
◆母校通信       田 中 康 秀
◆六甲台だより     鈴 木 一 水
◆本部事務局だより 一般社団法人 凌霜会事務局
 会員増強対策委員会/公益目的財産額の寄附/終身会費納入
 制度の新設と口座自動引き落としのご案内/会誌「凌霜」編
 集委員紹介/事務局への寄付者ご芳名
◆(公財)六甲台後援会だより(31) (公財)神戸大学六甲台後援会事務局
◆凌霜俳壇  凌霜歌壇
◆学園の窓
  人間の安全保障研究の国際的広がり   栗 栖 薫 子
  曲がり角にある日中関係をどう考えるか   梶 谷   懐
  外国書講読で英文財務諸表を読む   北 川 教 央
  農村調査と国際協力   島 村 靖 治
◆六甲余滴
  法学と商学の学際的な学会   齋 藤   彰
  神戸と豪州   五十嵐 正 博
◆大学文書史料室から(5)   野 邑 理栄子
◆学生の活動から
 第33回六甲祭を終えて   鈴 木 優 介
  六甲祭を楽しむ    竹 下 寿 幸
◆六甲台就職情報センター NOW 思いを伝える   浅 田 恭 正
◆神戸大学本館の銘板のこと 瀧 川 辰 雄
◆六甲台武道場『艱貞堂』有形文化財登録と開館式   藤 田 誠 一
◆リレー・随想ひろば
  ラグビーと狂言と私    太 田 奎 吾
  介護も是亦、楽しからずや!   立 岡   健
  第三の人生をどう生きるか   白 川 邦 與
   外国語の学習と教育について   山 田 基 洋
   中小企業の事業承継   津 島 晃 一
◆本と凌霜人 「自治体国際政策論―自治体国際事務の理論と実践―」 辻   雄 史
◆支部通信 東京、大阪、京滋、神戸、下関・北九州、熊本、デトロイト
◆メルマガ「凌霜ビジネス」ヘッドライン
◆神戸大学ニュースネット委員会OB会


<抜粋記事>

◆理事長からのメッセージ(16)
       一般社団法人凌霜会理事長 高 﨑 正 弘

 年が改まってはや1カ月が過ぎ、厳寒の季節を迎えておりま
すが、凌霜会諸兄姉におかれましてはお元気にお過ごしのことと存じます。新年のご挨拶が遅れましたが本年も宜しくご支援、ご協力下さいますようお願い申し上げます。
 昨年は、凌霜百年の歴史に新たなページを加えた一般社団法人への移行が無事終了し、ご尽力下さいましたご関係者に改めて厚く御礼申し上げます。ただ一方で、今後の新法人の活力強化に向けての課題も山積しており、本年も一休みすることなく、この対応に万全を期して参ります。

 会誌の様式刷新
 新法人への移行を契機として会誌を改定すべく、「凌霜」検討委員会を設け、そのありようについて議論を重ねていただきました。その後、当委員会からの答申内容に沿った会誌刷新の具体化作業を進めて参りましたが、今般、本年第1号誌(凌霜396号)から新たな様式で皆さまのお手元にお届けすることとなりました。長年慣れ親しんだ旧凌霜誌への思い入れも多々あろうかと思いますが、「より読みやすく」、「より親しみのある」をキーワードに時代の変化に合わせ、いろいろな思いを込めて改定した新凌霜誌を引き続きご愛読下さいますようお願い申し上げます。

 新法人移行作業のその後
 昨年10月15日付で、一般社団法人凌霜会の公益目的財産額は移行認可申請書に記載の通り、42、369、027円にて内閣府の認定を取得、続いて11月28日、公益財団法人神戸大学六甲台後援会へ同財産額の寄附証書授与を執り行ったところであります。あとは、今期決算に基づく当局への公益目的支出計画実施報告をもって全ての作業が完結致します。
 思い返すと、平成20年夏、兵庫県庁担当部局に凌霜会の公益認定の可能性について打診し、①同窓会事業を主たる事業とする㈳凌霜会が公益認定を受けることはまず不可能、②同様の主旨で、同窓会事業を公益目的財産の費消対象と認めてもらうことは難しい、③税務署による非営利型・共益法人認定は可能ではないか、との感触を得て同年11月、平松現副理事長をヘッドとする「公益法人改革対応・収支改善対策委員会」をスタートさせました。その後約4年間の準備を経て今日に至ったのです。この間、大学の先生方、学生代表者諸君、凌霜会事務局をはじめ多くの会員・準会員の皆さまにお力添えいただき、手作りで法改正への対応を滞りなく完了する見通しとなりました。ここに、伝統ある凌霜百年の歴史に新たな1ページを加えたことを記録し、皆さま方のご尽力を後世に伝えたいと思います。
 昨年秋のホームカミングデイの前後約2カ月間、附属図書館主催の資料展示会「開学のころ」が開催されました。その展示物の中で、以下にご紹介する文章を添えた本学第1回卒業生の皆さまの記念写真を目にし、改めて、歴史を引き継いだ者の一人としてその責任の重さを痛感したところであります。
 「神戸高商は予科1年・本科3年の4学年制で、予科を第1部(中学校卒)と第2部(地方商業学校卒)に分けた2部制に特色があった。東京高商が中学校卒のみの採用だったこともあり、神戸には全国から応募者が殺到した。第1回の入学試験には708名が応募し、合格者は180名、そのうち4年後の卒業生はわずか92名で、当時の学業の厳しさが数字にも現れている。」

 会員増強対策委員会の設置
 前記の公益目的支出計画実施により、新凌霜会は、剰余金ゼロ、財務上の弾力性不足という課題を抱えてのスタートとなっています。この課題に対処すべく、理事会の決議を経て昨年11月に「会員増強対策委員会」を設置し、財務基盤の早期安定化に向けての動きを開始しました。
 新入生入学手続き時の入会勧誘策の強化に始まり、準会員との絆の強化、本年4月にスタートする終身会員制度の推進等々、その施策や対象者が多岐に亘ることに鑑み、委員会メンバーには、卒業生に加えて、現役の学生代表、先生方など多方面の皆さまにご参加いただきました(メンバーのお名前は「本部事務局だより」20ページをご参照下さい)。
 昨年11月2日に第1回委員会を開催し、議論と並行して出来るものから逐次実施していくことと致しましたが、当面は、そのウエートを高めつつある準会員層及び若手会員層向けの施策を優先的、重点的に推進致します。これら施策に加えて、新法人の財務の弾力性回復を急ぐべく、皆さま方からのご芳志を緊急避難措置としてお願い出来ればと考えております。六甲台後援会や大学基金からのお願いとの重複感を回避し、金額の多寡を問わずお心を寄せていただければ幸いであります。
 ご芳志は、左記寄附専用口座までお振り込み下さいますようお願い申し上げます。お振り込み確認後、一般社団法人凌霜会の領収書をお送りさせていただきます。なお、現凌霜会は公益法人ではありませんので、税法上の特典は適用外となっています。何とぞご理解下さいますようお願い申し上げます。
 銀行名 三井住友銀行六甲支店
 口座番号 普通預金 4407452
 口座名義 一般社団法人凌霜会寄附口
  (注)同姓同名等の混同を避けるため、振込依頼人欄に①卒業・修了年号(昭和はS、平成はH)、②卒業・修了年次、③氏名の順にご入力をお願い致します。

 終わりに
 最近、現役の学生諸君から「今の若い人は周りの人とのつながりは求めるが、年代や活動舞台の異なる人との絆には余り興味を示さない」といったことを耳にしました。このグローバル化の時代、国民の「内向き姿勢」が問題になっています。刷新された会誌「凌霜」と各層にまたがる「会員増強対策」が、凌霜関係者の年代を超えての「絆」の再構築の一端を担えれば、これに勝る喜びはありません。
 昨年6月に文科省より「大学改革実行プラン」が公表され、今母校は、国立大学法人化以来の変革の波に洗われています。関係者の一員として、我が凌霜会の組織力・財務力の更なる強化が強く求められています。変わらぬご支援、ご協力を宜しくお願い申し上げます。


◆巻頭エッセー

 超高齢社会を考える
             昭48経 松  尾  憲  治
               (明治安田生命保険相互会社社長)
  
 私は1949年生まれ、いわゆる団塊の世代である。第二次世界大戦の終戦から間もない1947年から49年までの3年間の出生数は、およそ806万人に達し、消費者として、また働く者としても日本の高度経済成長を支え、戦後の社会・経済に大きな影響を及ぼす存在であった。この団塊の世代が、いよいよ老年期を迎える。昨年、47年生まれの方が65歳となり高齢者の仲間入りをしたことが、日本の高齢化の象徴的な出来事としてマスコミでも採りあげられた。
 わが国では高齢化が急速に進行する中で、年金、医療、介護などの社会保障やその費用負担などの改革が、喫緊の国家課題となっている。昨夏、激しい議論のすえ成立した消費税率の引き上げも、そうした改革の一つであることはご高承のとおりである。
 高齢化は、単に国の社会保障や財政に影響を与えるだけでなく、企業にとっては需要構造の変化や労働力の減少に繋がる看過できない課題である。また個々人には、人生のおよそ1/3を占める定年後のセカンドライフを充実して暮らすにはどうすればよいか、という問題を突き付けている。

 高齢化の現状と将来
 日本は2011年時点で、65歳以上の高齢者が全人口の23・3%を占める世界一の高齢国である。世界保健機関(WHO)の定義では、全人口に占める65歳以上人口の比率が7%を超えると「高齢化社会」、14%超を「高齢社会」、21%超の場合に「超高齢社会」とされ、日本は世界で唯一の「超高齢社会」国である。高齢化が進む理由は、一つは平均寿命の延びによって65歳以上の人口が増加したこと、いま一つは出生率の低下により若年人口が減少したことにある。
 2011年の簡易生命表によれば、日本の平均寿命は男性79・4歳、女性85・9歳で、男性が世界1位、女性は東日本大震災の影響もあって香港に次いで2位である。戦後間もない1947年には男性50・1歳、女性54・0歳、1965年では男性67・7歳、女性72・9歳であったことからすると、驚異的な伸びを示している。
 蛇足ながら平均寿命とは、生まれたばかりのゼロ歳児の平均余命のことであるから、読者は、ご自分の年齢に、その年齢の平均余命を加えると、統計上ご自身が何歳まで生存するかを推定できる。因みに男性の平均余命は40歳の方で40・7年、65歳では18・7年になる。
 一方、出生状況であるが、晩婚化や非婚化が進展する中で、一人の女性が一生の間に生む子供の数を示す「合計特殊出生率」の低下が著しく、2010年の水準は1・39と、人口を維持するのに必要とされる2・08を大きく下回っている。1949年の出生率が4・32であったのと比較すると、大変な落ち込みだ。このため近年の出生数は、毎年100万人程度にまで減少し、270万人だった1949年の約40%に留まっている。
 このような状況から、日本の将来人口は今後も減少が続き、高齢化がさらに進むと予測されている。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、2030年には、総人口は現在から約1、000万人減少し1億1、661万人に、65歳以上の人口は逆に700万人増加して3、684万人となり、高齢化率は23・3%から31・6%へと大きく上昇する。
 半世紀前には65歳以上の高齢者1人を9人の現役世代が支える「胴上げ」型構造であったものが、現在は2・8人で1人の「騎馬戦」型へ、さらに2030年には1・8人で1人、2050年には1・3人で1人という「肩車」型社会になると予測されている。

 高齢化に伴う社会保障費用の増加
 高齢化が進展するのに伴って、わが国の社会保障費は毎年1兆円増加すると言われる。高齢者人口が増えるに従って、社会保障費の中で年金の支給総額が増大するのは避けられないが、医療費や介護費用は抑制したいものである。健康で長生きできれば、医療費や介護費用の伸びを抑制することができる。
 先日、老年学の研究者の講演を聞く機会があった。その研究によると、わが国では男女ともに75歳を境にして体力が衰え、健康を損なう人が急激に増加するということであった。確かに医療費や介護サービスの受給統計をみると、このことが頷ける。
 2011年度の医療費は国全体で37・8兆円、このうち75歳以上の方にかかる費用は13・3兆円で、全体の35%を占める。75歳以上の人口は総人口の約10%であるから、これに比べて医療費のウエイトは著しく高い。因みに一人当たりの年間医療費でみると、70歳未満の平均が約18万円であるのに対し、75歳以上では90万円を超えている。
 次に介護費用は2011年において約8・3兆円、これも年々増加している。昨年6月現在の要介護認定者数は約540万人(要支援を含む)で、このうち要介護1以上が400万人である。また年齢別では75歳以上が450万人と受給者の大宗を占め、75歳以上の人口の30%が要介護の認定を受けている。

 健康寿命と健康長寿社会
 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を健康寿命という。できるだけ長く元気に暮らしたいと望まない方はいないだろうが、健康寿命は男性が70・5歳、女性が73・6歳で、平均寿命との差は男性が9年、女性は13年となる。わが国では「健康である」と感じている高齢者の割合が約65%と、アメリカの61%やドイツの33%など諸外国に比べて高い。このため、すでに健康長寿社会が実現されているという見方もあるが、前項の医療費などの状況や平均寿命と健康寿命の差などをみると、さらに一段の努力が必要であると感じる。
 先ほど紹介した老年学は、ただ健康というだけでなく、幸福な老い(SUCCESSFUL AGING)を追求する学問である。その研究成果からは、高齢者の健康保持や生きがい創出のために、社会参加や社会活動の維持が重要であるとされる。国の施策も、この点に力点が置かれており、ゴールドプラン21の目標も「積極的な社会参加」であった。
 なぜ社会参加や社会活動がよいかといえば、それらの活動を通じて他者とのコミュニケーションが拡大されるとともに、身体を動かすことにもなるため、知的能動性や基本的動作能力の低下予防につながることにあるそうだ。しかし、現実には高齢者の社会参加などは活発になっておらず、これを促進するための仕組み作りが課題となっている。
 とくにビジネスマンは、定年後に自宅に閉じこもる傾向が強いと言われる。今年から65歳にまで雇用が延長されるが、人生90年時代と言われる中で、定年後の25年をいきいきと生活するためには、進んで社会との接点を維持し、何らかの活動に参加することが必要ではないかと考える。それも引退後ではなく、現役時代から意識して準備することが大事だと思う。個人にとっても、社会全体からも、健康長寿社会の実現が大いに期待されている。
筆者略歴
1949年北九州市生まれ。1973年神戸大学経済学部卒業。同年明治生命入社。2001年取締役就任。2004年明治安田生命発足により同社取締役。2005年同社社長就任。