凌霜第401号 2014年04月29日

ryoso401.jpg凌霜四〇一号目次

◆巻頭エッセー EUエキスパート人材養成プログラム   萩 原 泰 治

◆母校通信                             正 司 健 一

◆六甲台だより                           鈴 木 一 水

◆本部事務局だより               一般社団法人凌霜会事務局

◆米寿のお祝い

◆(公財)六甲台後援会だより(36)     (公財)神戸大学六甲台後援会

                                          事務局

◆水島銕也先生「生誕150年記念事業」のご紹介      高 﨑 正 弘

◆学園の窓

  神戸大学の課題と経営学研究科の役割           國 部 克 彦

  経営機械化展示室が「分散コンピュータ博物館」に

             認定されました               上 東 貴 志

  「競技」と「教育」の間で                       松 生 史

  非営利経済システムと経済学                 鈴 木   純

  開発経済学と政策評価                     伊 藤 高 弘

◆大学文書史料室から(10)                    野 邑 理栄子

◆凌霜俳壇  凌霜歌壇 

◆第三次カンリガルポ山群遠征計画について    山形裕士・乙藤洋一郎・井上達男 

◆本と凌霜人

「日本書紀・古事記 編纂関係者に抹消された邪馬台国」   富 田 勝 三

  「百寿を生きる」                             堀    ろく郎

  「FTA/EPAでビジネスはどう変わるか」            團 野 廣 一

◆中国と出会って40年                          亀 井 正 明

◆学生の活動から

  六甲台就職情報センターでのアシスタント経験から

                    学んだこと              東   沙希子

◆六甲台就職情報センター NOW ―楽しそうな仕事―          浅 田 恭 正

◆表紙のことば 都市国家から一都市へ               野 口 順 一

◆リレー・ 随想ひろば

  学徒出陣70年                             森 下 茂 生

  「傘寿」二題                               安 中 一 雄

  余生は何時から始まるのか                     野 田 浩 志

  団塊の世代から ありがとう                     井 野 節 子

  アメリカでの在外研究生活                      宮 崎 裕 介

◆クラス大会・クラス会・支部通信・つ ど い・ゴルフ会

◆神戸大学ニュースネット委員会OB会

◆神戸大学クラブ(KUC)事務所移転のお知らせ

◆編集後記                                 鈴 木 一 水

◆投稿規定

<抜粋記事>

 巻頭エッセー

◆EUエキスパート人材養成プログラム

             日欧連携教育府長 萩  原  泰  治

 

 今年度から新しい教育プログラム「EUエキスパート人材養成プログラム」が始まりました。法学部・法学研究科、経済学部・経済学研究科、国際文化学部・国際文化学研究科3部局が協力して、世界で活躍できる人材を教育するプログラムです。

 このプログラムを実施していくために、日欧連携教育府という組織を昨年10月に立ち上げました。私は経済学研究科から日欧連携教育府に所属を移して府長となりました。副府長として国際文化学研究科の坂井一成教授が、法学研究科を代表する委員として関根由紀教授が参加しています。あまりグローバル人材と言えない私ですが、海外経験の豊富なお二人にとても助けられています。また、プログラムを実施する教員として、EU圏からウラディミール・クレック特命准教授(独)、アンナ・シュラーデ特命講師(独)、ミケーラ・リミヌッチ特命講師(伊)が、留学する学生を支援するアカデミックコーディネーターとして髙城宏行特命准教授が着任しました。さらに優秀な職員の助けも得て、プログラムを推進しています。

 最近、日本の大学生が海外に関心を持たず国内指向であるという指摘がある一方で、今こそ日本に「グローバル人材」が求められていると言われています。大学に多くの期待が寄せられています。このような意見に対応するために、各大学は競って国際化のプランを出しています。六甲台は、神戸高商以来国際性を重視していました。高畑誠一氏のように卒業直後、いきなり鈴木商店ロンドン支店長として大活躍するような人材を輩出してきました。しかし、本学においても最近やや内向きの傾向があったように思います。このことを反省して、国際化を進める教育プログラムが各学部・大学院において実施されています。経済学部のIFEEK(学部・大学院)、経営学部のKIBER(学部)、SESAMI(大学院)、法学部のGEEPLS(学部)、国際協力研究科の上海復旦大学と高麗大学との共同教育プログラムです。

 今回立ち上がったEUエキスパート人材養成プログラムは、これらのプログラムと比較して、学際的であることに加え以下の特徴を持っています。

 第一に、タイトルにあるEUに焦点を当てていることです。EUは巨大な経済圏であり、国際社会からの期待も高く、国際標準化分野等で制度、ルール作りの面で重要な役割を果たしています。経済分野、地球規模課題で日本との戦略的パートナーシップ構築が期待されています。神戸大学は、EUインスティテュート(EUIJ)関西の活動を通じて、EUからも文部科学省からも高く評価されています。EUはこのように重要な地域ですが、さらに28のそれぞれ歴史のある国の連合体であることから、多様な価値観を持つ国々であることが特徴です。

 留学というと米国留学を思い浮かべると思います。米国の大学院では大多数が米国人である中での留学で、米国流の考え方を受け入れることが必要になります。それに比べて、EU圏では共通言語としての英語教育を行う大学が増えており、そこに集まる学生はEU圏にとどまりません。むしろ米国の大学より多くの国籍の学生が参加していることにより、様々な文化的、社会的背景のある学生との交流・議論ができます。この観点からは、米国よりEU圏への留学を促進する方がグローバル化に対応していると考えています。

 第二に、学部・修士一貫ダブルディグリープログラムであることです。学部の専門を修士レベルで更に深化させることができます。海外や国際機関でのキャリアを考えるなら、修士号は必須です。また、日本企業で働くとしても、今後海外との交渉はますます重要になります。さらに、神戸大学の修士号とEU圏の大学の修士号を取得するダブルディグリーを目指します。2つの修士号を取得することは通常4年かかりますが、それをがんばって2年で取得できるよう工夫しています。EU圏の大学での研究を含むことにより、現地での調査が容易に行うことができ、2つの大学での研究指導を受けることにより、日本からとEU圏からの2つの視点に基づく広い視野の研究を行うことができます。

 特に海外でのキャリア形成を考えている場合、ヨーロッパで有名な大学院の学位を取ることは有利です。本プログラムでは、一貫教育により海外留学、修士課程でのダブルディグリー取得がより円滑になります。

 しかし、このようなダブルディグリーを取得することは、相当前からの準備がなければ困難です。そこで、本プログラムでは、学部2年生からEU圏の大学院への進学を念頭に置いた教育を行います。

 カリキュラムは、3人の外国人特命教員とアカデミックコーディネーターによる濃密な教育と招聘外国人教員による講義、学内の教員によるEU圏に関する数多くの講義からなります。既に6名の招聘教員による授業が行われました。彼らからは異口同音に神戸大学の学生が受け身であるという指摘を受けました。教師の話をきちんと聞くという教育を受けてきた日本人学生にとって、対等に議論をすることが求められる海外の大学では能力を十分に発揮できないという恐れがあります。

 この点を意識して、本プログラムの核となる「日欧比較セミナー」という3名の外国人教員による英語による授業を設定しています。EU関連の文献を読み、発表、レポート作成を行います。2年前期から3年前期まで履修します。この授業を通じて、留学先での授業に積極的に参加し、留学に成功するでしょう。さらに、今年は、サマースクールを開き、アカデミックなレポートを作成するためのワークショップも予定しています。

 本プログラムの学部での修了要件の一つとして、3年後期から半年ないし1年のEU圏の大学への単位互換留学で一定の単位を修得することがあります。大学院でのダブルディグリー留学をするための地ならしです。

 ダブルディグリーを取得した学生は、EU関係に詳しいというだけでなく、他の国々との関係においても社会的背景の違いを意識できるようになります。このような人材が国内外の企業や国際機関で必要とされていると考えています。昨年末にプログラム生の募集を行い、20名の学生を決定しました。現2回生の第1期生が、学部3年と修士2年の5年間でプログラムを修了して社会に旅立つことを楽しみにしています。

 昨年度、日EU政府共同実施のICI-ECPという学生交流プロジェクトとして、「日・EU間学際的先端教育プログラム」が採択されました。これは、日本側4大学(神戸大学、大阪大学、九州大学、奈良女子大学)とEU側6大学(ベルギーのルーヴェン大学、英国のエセックス大学、オランダのフローニンゲン大学、ティルブルグ大学、ポーランドのヤゲヴォ大学、スウェーデンのルンド大学)でコンソーシアムを形成し、ダブルディグリー協定校間で修士課程の学生の相互派遣を行うものです。2013年から4年間でEU側から20名、日本側から23名の学生を送り出します。

 日本4大学とEU6大学が相互に行き交うという密なネットワークにはなっておらず、神戸大学関係では、経済学研究科と国際文化学研究科対ルーヴェン大学、法学研究科対エセックス大学及びヤゲヴォ大学という研究科レベルでのダブルディグリー協定の束となっています。全体で9のダブルディグリー協定からなります。これまで、ダブルディグリー協定を結ぶ交渉を行ってきましたが、制度の違いがあり、様々な困難に直面しました。ヤゲヴォ大学では考え方で神戸側とかなり意見が異なり、交渉を行った法学研究科の増島建教授は大変苦労されました。しかし、最終的には合意に達し、スタートすることができました。相互に送り出す学生たちが成功することにより、EUエキスパートプログラムの学生にも大きな刺激を与えることになると思います。

 EUエキスパート人材養成プログラムに、なぜ経営学部が参加していないのかといぶかる方もおられるかもしれません。本プログラムの計画段階で参加を打診しましたが、自身のプログラムであるKIBER、SESAMIに集中するということで、残念ながら参加を見送られました。将来、経営学部も参加して六甲台全体のプロジェクトに発展する日が来ると期待しています。