凌霜第405号 2015年04月01日

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凌霜四〇五号目次

◆第14代神戸大学長就任に当たって                     武 田   廣

◆母校通信                                           正 司 健 一

◆六甲台だより                                         鈴 木 一 水

◆本部事務局だより                        一般社団法人 凌霜会事務局

  「口座自動引き落とし」「終身会費納入制度」などのお知らせ/

  ご芳志寄附者ご芳名/事務局への寄附者ご芳名/暑中見舞広告募集

  /米寿のお祝い

◆(公財)六甲台後援会だより(40                         (公財)神戸大学六甲台後援会事務局

◆大学文書史料室から(14                           野 邑 理栄子

◆凌霜俳壇  古典和歌

◆学園の窓

 逆風下のGMAPS立ち上げとペーパーテストの哲学                地 主 敏 樹

 国際協力研究科長就任にあたって                        四 本 健 二

 刑事訴訟法の改正に思うこと                                宇 藤   崇

 企業の社会的責任と利益の関係                           中 村 絵 理

◆計算機と経営学の誕生                                  伊 藤 宗 彦

◆神戸大学・中国地質大学(武漢)

 チベット・ニェンチンタンラ西山群合同登山計画             福田秀樹・山形裕士

◆アイセック神戸大学委員会設立50周年記念行事を

      百年記念館で開催                                 木 村 晴 彦

◆關家三代・三商大の系譜                                柿     聰

◆兵庫和田岬福嚴寺の寺史「福嚴寺記並

          蒼官餘韵拾遺」と天井画「蟠龍図」               都   良 世

◆六甲台就職情報センター NOW

                 ―原点に還る―                    浅 田 恭 正

◆リレー・随想ひろば

 心に残ること                                           森 川   崇

 母校の斜陽化を全力阻止                               山 代 義 雄

 ある日の孫娘との会話                                   鷲 田 哲 次

 海外生活の思い出                                  敏 森 廣 光  

 伝えることの難しさ                                   古 川 朋 雄

◆表紙のことば 佛の賑わい                            髙 倉 俊 夫

◆本と凌霜人 「『働き盛り』のNPO」                           都 倉 康 之

◆追悼

 橋口(旧姓馬場)忠男大兄(昭28営・予科9回生)の

          急逝を惜しむ                                市 島 榮 二

 岩田宗之助君(昭30法)への追慕                        都   良 世

 里 收君(昭42経)を送る                            三 宅   晃

◆編集後記                                            鈴 木 一 水

<抜粋記事>

14代神戸大学長就任に当たって

             神戸大学長 武 田   廣

 昨年1215日に、学長選考会議より、第14代神戸大学長の指名を受けました。任期は平成27年4月1日から4年間であります。平成16年にスタートした国立大学の法人化にともない、本学も「国立大学法人・神戸大学」となり、10年が経過しました。私の任期は法人化における、中期目標・中期計画の2期から3期の移行期間に当たり、法人化の総括と今後の展望が厳しく精査されることになります。また、財政的には、削減係数あるいは効率化係数という名の下、年約1・3%の運営費交付金の削減が続き、第3期には配分の構造そのものがドラスティックに見直されようとしています。「大学の機能強化」と「学長の戦略的裁量」に重点が置かれ、従来の形の運営費交付金は3割削減されるとも言われています。このように厳しい状況の下で学長を引き受けるに当たり、凌霜会の皆様に、神戸大学の置かれている現状を報告するとともに、進むべき将来像を提案させていただき、ご指導ご鞭撻をいただければ幸いです。

 

(1)教育・研究と国際化

 大学における研究活動は基本的に個々の教員の知的好奇心に根ざすものであり、神戸大学のような総合研究大学においては多様な分野が共存しています。「人文・人間科学系」「社会科学系」「自然科学系」「生命・医学系」という4大学術系列を持ち、幅広い分野における基礎および応用研究、戦略的な先端研究の展開が遂行されています。この多様性を担保しながら、なおかつ神戸大学の特徴を出す工夫が必要であると考えます。また、企業等では行えない基礎的な研究を長いスパンで行うことも大学における研究の大事な使命であります。平成25年に本学は国内22の「研究大学」のひとつに採択されました。科学研究費の獲得状況や学術論文の引用件数などを指標にして、10年後の神戸大学の姿を提示する必要がありました。神戸大学の強い部分、弱い部分が浮き彫りにされましたが、今後研究分野での選択と集中、弱点の補強などの措置が急務であると感じています。もともとこの事業は、日本の大学の「世界ランキング」が長期低落傾向にあるのを憂慮した政府・文科省の危機感から出発したものでありますが、日本の大学は押しなべて、「国際性」の評価が低く、いかに優秀な人材(研究者・留学生)を海外から受け入れるかが焦点となっています。そのためには、神戸大学の研究水準を上げることと同時に、外国人研究者等のためのゲストハウスなどの受け入れ研究機関として最低限のインフラの整備が重要であると考えています。

 大学として果たすべき役割の基本は、「教育・研究を通じた人材養成と知の継承・創造」であります。教育と研究が不可分の関係を持っているのが、大学の特徴であり、そこにおける教育・研究の臨場感が大学の人材養成の本質であると考えます。昨今は、グローバル人材の養成が叫ばれ、神戸大学も今後10年間の教育のグローバル化の指針として、文科省の「平成26年度スーパーグローバル大学等事業」に申請を行いました。残念ながら採択には至りませんでしたが、留学生の受け入れ、神戸大学生の海外への送り出しなどの「神戸グローバル・ハブ・キャンパス構想」の実現に向けて最大限の努力をすることには変わりはありません。英語による神戸サマースクールの実施、神戸大学への海外研究者の積極的招聘、若手研究者の長期海外派遣による教員の国際化など、大学の教育・研究の国際化の基盤を整備するなどの堅実な作業を継続して行っていきます。私自身、約11年間の海外生活の経験がありますが、若いうちに多様な文化背景を持った研究者達と切磋琢磨できたことは非常に大きな財産であると思っています

 大学の最大の財産は「人」です。法人化以降、神戸大学においては常勤の若手研究者が減り続けています。これは、全国の国立大学法人に共通して見られることでありますが、年約1%の人件費抑制のために、助教・助手のポストが供出されていることが主要な原因であると考えられています。優秀な若手教員の枯渇は国の将来を危うくする現象であり、特に教育・研究の現場では深刻な影響を及ぼし始めています。思い切ってシニアポストを若手ポストに切り替えるポジティブアクションを整備し推進したいと考えています。

 

(2)大学経営と学長のガバナンス

 いかに高邁な理想を掲げても、神戸大学のような巨大な組織の運営には財政的な基盤の確立が伴わなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。財政基盤の確立の大原則は、「入るを量りて出ずるを制す」です。これは、二宮尊徳による、経営再建の思想と言われています。ただし、現在の大学法人にあっては、受け身的に「入るを量りて」いるだけでは不十分で、積極的に競争的外部資金を獲得していくことが求められています。現在の神戸大学の外部資金は年間約100億円で、部局への事業経費配分額(基盤人件費を除く)を超えるに至っています。10年前の法人化の際には考えられなかった伸びです。神戸大学の持っているポテンシャルを考えると、これに満足することなく、更なる努力が必要だと感じています。このためにも、優秀な教員を獲得し、研究力を高める必要があります。

 「出ずるを制す」については、法人化後硬直化した既定経費の大幅な見直しが必要であります。年度ごとに大学執行部による予算ヒアリングを行って、配分経費を査定しています。しかし、「これこれの新しい事業に予算を」という要求は山のようにありますが、「この事業は役割を終えたから、減額あるいは停止を」という要求(?)は殆どありません。もちろん、事業採択の時点で期限をつけているものには、評価に基づいて判断すれば良いのですが、長年既定経費として漫然と配分されているものも多いと感じています。既定経費の抜本的な見直しは、大学全体としては厳しい作業になると思いますが、避けては通れません。

 大学改革の中で、学長のリーダーシップを高める必要性が言われ、最近、この目的の為に、学校教育法および国立大学法人法の一部が改正されました。神戸大学でもこれに沿った諸規則が改正されました。教員や部局長の人事権が、各教授会ではなく学長にあることが明記されています。また大学運営の重要事項については、その決定権が教授会から学長に移行しています。しかし、法律や規則の改正で、形式上、学長の責任が重くなっただけでは、単純にリーダーシップが高まるわけではありません。大学は多様な価値観を持った教員組織の集合体であり、そこでのコンセンサスが得られなければ、健全なリーダーシップとは言えないと考えます。今後は、大学執行部、各部局、各構成員の間のオープンな情報共有と議論を行い、各種指標に基づいた評価と、それに基づいた迅速な意思決定を行い、スピード感とコンセンサスを重視した大学運営を目指したいと思います。

 

(3)最後に

 国立大学法人・神戸大学としては、ここに述べた以外にも対応すべき課題は山積しており、構成員一同が最大限に力を発揮できるよう、学長として舵取りをしていく所存であります。喫緊の課題として、「神戸大学の機能強化」の施策を全学展開していくことはもちろんのことですが、我々は未来を切り開き、開学以来の「学理と実際の調和」という理念を掲げ、神戸大学の次の100年を輝かしいものとする努力をしていかなくてはなりません。学内外の英知を結集し、「神戸大学が世界水準の教育研究機関を目指す」という志の高いメッセージを発し、適切なマイルストーンを設定し、着実な歩みを続けることが肝要です。凌霜会の皆様には、今後とも力強いご支援をお願い致します。

 

筆者略歴

1949年愛媛県生まれ。東京大学理学部卒、大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士(東京大学)。専門は高エネルギー物理学。1989年に神戸大学理学部教授、2009年4月から神戸大学理事・副学長。2010年からATLAS実験が本格的に開始され、人類未踏のエネルギー領域での素粒子探索が遂行され、2013年には素粒子標準模型で唯一未発見であったヒッグス粒子を発見し、自然界への理解に大きく貢献した(同年の欧州物理学会賞を受賞)。2015年4月1日、神戸大学長に就任。